花の本棚

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櫛木理宇 残酷依存症

櫛木理宇 「残酷依存症」
櫛木さんの新刊が出ていたので買ってみました。

 


男子大学生3人がサークルの借家にて何者かに監禁される。犯人から互いを攻撃し合うことを要求されその様子は犯人によって動画サイトにアップされているという残虐さであったが、それを受けるだけの罪を3人は過去に犯していると視聴者にバラされているために止める者はいなかった。
一方で女子大生が殺害される事件が発生しており、捜査すると高校にて彼女は取り巻きの男子に命令して気に入らない女子生徒を暴行させていたことが判明し怨まれる根拠が多大にあると判明した、というお話。
 
ホモソーシャルをテーマにしたミステリー作品となります。ホモソーシャルとは同性間の関係性を指し俗にいう「男の/女の付き合い」のことだそうです、私も本作で初めて聞きました。本作ではそんな同性間だからこそ発生する「自分を相手より上に見せたい」という欲望についてリアルに描いています。動画投稿にて犯罪まがいな行為をアップして炎上、という流れを近年よく見ますが中高年の男性たちでさえも昔はワルだった自慢を未だにしているのを見るに「他の人が怖がって出来ないことをやってやった」というホモソーシャルの影響は昔からなのだろうと考えてしまいました。
他にも男女でホモソーシャルはどう違うのか、私刑の問題などについても描写があるため読んでいてためになる部分が多くありました。なお裏表紙のあらすじには「デスゲーム」と書かれていたのですが、そういった描写は多くなかったので本作のメインではないようでした。
 
作中の警察官が社会の敵と犯罪者は別物で警察官は犯罪者を捕まえるのが仕事という考えを言っていました。この割り切り方は良いやり方だと思いました。これであれば私刑は社会問題と言うほどの問題行為ではないと認識できます。
上記の考えでいくと社会の敵に警察は何もできないということです。そうなると一般人たちが私刑で自浄していくのが一つの方法となり、かつて不良生徒を教師が殴って止めていたというのと本質的には同じシステムになるでしょう。日本では馴染みないですが自警団に近いものと考えるのが良いと思います。犯罪者を一般人が警察官や裁判に代わって私刑にし始めたら問題ですが、そこが順守されればゆくゆくは私刑が問題視されなくなっていくだろうと私は考えています。
問題となるのは私刑になった人の個人情報がすぐに晒されて広まるため、取り返しのつかない事態になるまでが物凄く早いことです。そうなってしまうと自分自身で考えて改心する前に私刑のダメージが来てしまうため、どうせ人生終わるならそのまま悪事し続けようという方向に傾くような気がします。そもそも社会の敵になるような行為をしなければいい、という意見が一番正しいのですがそれを言ってしまうと考えが止まってしまうので置いておきましょう。
 
ちなみに本作は「殺人依存症」に登場した人物が出てくるので一応は続編なのですが内容としての繋がりはほぼないのでどちらを先に読むかは気にしなくてOKです。気になる方は気軽に手に取ってみてください。