花の本棚

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中山七里 連続殺人鬼カエル男 完結編

中山七里 「連続殺人鬼カエル男 完結編」
「連続殺人鬼カエル男」シリーズの最新刊が出ていたので買ってみました。久しぶりに続編が出たと思ったら前作から5年以上も経っていたのですね。

 



 
トラックに生きたまま括りつけられ、高速道路で引き摺られて死亡した遺体が発見された。その遺体のそばにはかつて恐れられた「連続殺人鬼 カエル男」の犯行声明分が添えられていた。かつての事件の重要人物は医療刑務所から脱走して行方が分からなくなっていたが、再び殺人鬼として帰ってきたとして騒然となる。
いくつかの事件の傾向から今回のターゲットは犯罪者を心神喪失により無罪にした人権派弁護士が狙われていると判明したことで、因果応報であるという声が強くなる。
しかしかつてカエル男と対峙した刑事たちはこれまでと行動パターンが違うことに違和感を覚え始める、というお話。
 
刑法第39条をテーマにしたミステリー風の社会問題系の作品となります。
本作は「心神喪失者の行為は罰しない」を声高に主張していた弁護士たちが心神喪失者に該当する「カエル男」に猟奇的に殺害される、という構図となっています。この構図をもとに刑法第39条を廃止あるいは改訂するべきかどうか?という問いを作中では何度も投げかけていました。描写や刑法第39条に対する説明量から見ても本作のメインはこの部分のようでした。こういった社会問題系が好きな方には楽しめる内容となるでしょう。
ミステリーとしては前作よりもかなりあっさりしています。社会問題の描写に注力し、ミステリー面はそれほど深くしていないという印象でした。なのでミステリー部分を期待しすぎると肩透かしになってしまうかもしれません。
ちなみに本作はシリーズ物の完結編なので前の作品を読んでから読んだ方が良いです。さすがに本作から読んでしまうとカエル男がどんな存在かも掴めないまま終わってしまうかもしれません。
 
刑法39条は改定または削除するべきなのでは?という問いかけが何度もされていました。私は刑法39条とは今のところ無関係な人間なので、その立ち位置の視点から思うことを書いてみます。賛否という点で考えると、削除して良いと考えています。理由としては刑法39条によって救われた人がいるのかが見えないからです。
心神喪失者の行為は罰しない」によって犯罪者が無罪になり、被害遺族が理不尽な目に会い、犯罪者が野放しになるという事実が現在見えています。こういった刑法39条のマイナス面が顕在化している具体例はいくつもあるのに対して、刑法39条があったことで救われた具体的な事例が一つも見当たりません。法の専門家の方々からすると刑法39条が存在するプラス面を把握しているのかもしれませんが、それを一般人に分かる形で説明できていない現状では削除する方に傾くのは当然の流れでしょう。この問題が提起されてからそれなりに長いこと経つのにプラス面の具体的な事例どころか解説する人すら現れていないので、プラス面などそもそも無いのだろう、というのが私の意見です。
 
シリーズ通して読むと非常に面白いので、気になる方はチェックしてみてください。