花の本棚

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櫛木理宇 監禁依存症

櫛木理宇 「監禁依存症」
櫛木さんの新しめの作品を買ってみました。発売した時から気になってはいたけど後回しになっていました。
 


性犯罪の加害者側の弁護をすることで有名な弁護士がいた。被害者側を責め立てて心を折ることで示談に持ち込む手口で悪名高かったために彼を怨む被害関係者は多かった。
あるとき、彼が海外出張しているときを狙われて息子が誘拐されたと彼の妻から通報がある。犯人側が身代金要求に積極的でないことから怨恨によるものと推測されるが、彼に恨みがある容疑者候補があまり多く捜査は難航する、というお話
 
性犯罪の被害者と裁判をテーマにした社会問題系の作品です。「~~依存症」というシリーズ物の最新刊になります。
本書の見所は心理描写のリアルさにあります。性犯罪の被害者や関係者たちがどういった心情で事件の裁判に臨むか、示談になるときに心が打ちのめされる描写といったものがリアルに描かれていて非常に重たいです。全体の大半はこの描写なので最初から最後まで重い雰囲気となり、読み進めるのが鈍くなる箇所も度々ありました。
これ以外にもそういった犯罪にあってしまった人々が強くなろうとして努力や悩みを重ねている描写もあり、ここも本作の見所になるでしょう。
裏表紙のあらすじには「ミステリー」と紹介されていましたが、ミステリー部分はそこまで深くありません。事件の真相がそれに該当しますが推理したりできる描写にはなっておらず、上に書いた社会問題の方を引き立てるためにあるという印象でした。
またシリーズ物ではありますが前作を知っていないと困る部分はありません。シリーズ通して出てくる人物がいるのでちゃんと楽しみたいという人であれば前作を読んでおくと良いでしょう。
 
作中では性犯罪被害者の遺族が加害者弁護士から受けた屈辱により彼も同じ目合わせてやると怨嗟を募らせるシーンがいくつもありました。表紙にある「目には目を歯には歯を」を体現して本書の恐ろしさを引き立てる一場面となっています。しかし、私からするとこの「目には目を歯には歯を」は復讐の方法の中では慈悲深いものだと考えています
理由は二つあって、一つは復讐の規模です。仮に「職場で先輩に殴られた」に復讐するとしましょう。これによって被害者が受ける苦痛は殴られた物理的な損害だけでなく、それを思い出したときのフラッシュバック、今後どうしたらいいか悩んだ苦痛、皆の前で殴られた屈辱感など色んなものが時間経過とともに蓄積されます。それらを全部水に流して「殴る」だけで復讐を済ませてもらえると考えたら、加害者側から見たら非常にお得です。上記の分まで込みで復讐されたら殺されてもおかしくないでしょう。
もう一つは復讐の手段が明確なことです。同じ例で考えると復讐の方法は「先輩を職場で殴る」で確定しているから加害者側は安心できます。これがもし別の方法で復讐するとしか分からなかったら、そもそも対象が違い自分ではなく子供が殴られるかもしれない、など不確定な部分が多いほど恐怖は増すでしょう。被害者側が何も知らされずに攻撃されたのに対して、手段を明らかにしているという点で加害者側から見たら非常にお得です。
以上の二つから考えると「目には目を歯には歯を」は非常に慈悲深い復讐方法なのでむしろ感謝すべき対応と言えるでしょう。「自分がされて嫌なことを他人にもしない」という人間としての基本さえ守っていれば「目には目を歯には歯を」をされても何も問題ありません。
 
心理描写の上手い作品ですので、気になる方はチェックしてみてください。