花の本棚

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小林由香 チグリジアの雨

小林由香 「チグリジアの雨」
小林さんの新刊が出ていたことに気付いたので読んでみました。

 

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主人公の高校生は転入して間もなくいじめの標的にされてしまう。耐えられなくなり地元の川で自殺を試みたが、そこにいた不登校のクラスメイトに助け出されてしまう。どうせ死ぬならその前に人の役に立つことをしてみろ、と言われ自分にそんなことが出来るか疑問を持ちながらもクラスメイトの頼みを聞くことにした。頼みを聞いていくうちにクラスメイトから報復ゲームに参加しないかと誘われる、というお話。
 
いじめ問題を題材としたミステリー風の作品。
周囲に手を差し伸べそうな人がいるけれど追い詰められているために助けを求められない、などその描写は非常にリアルに描かれています。若い世代の死因第一位が自殺であることなど衝撃的な事実も書かれており、読む手が止まってしまうような場面もありました。出版時期からして作品には直接影響していませんが、去年あった中学生刺殺事件にていじめで自殺するより相手を殺した方が得なのでは?という意見が出ていたこともあり報復について色々と考えを巡らせてしまいました。
ミステリーとしては助けてくれたクラスメイトに関する部分があります。推理して探りあてる要素ではないので展開に沿って読んでいくだけで楽しめると思います。
 
作中ではいじめをしてきた生徒に報復として殺そうとするシーンがありました。邪魔者を排除するために殺害を試みたことは私もあるのでその心理は理解しています。
その上での意見は殺人は手段の一つでしかなく目的はあくまで排除であることを忘れてはいけない、ということです。基本的に排除の確実性が高い手段はリスクが高いです。上記の殺人を例にとると、相手は死亡するので排除の確実性は最高値ですが前科が付くのでハイリスクハイリターンな手段に分類されます。リスクは低いに越したことはないのでもしミドリリスクハイリターンくらいの別の手段があればそちらを取るべきです。当時の私はリスクよりも成果の確実性を重視していたため殺人を選びましたが、リスクをどれくらい許容できるかは価値観で変わるので排除に殺人を薦めようとは思っていません。ただ、リスクが低い手段は得られる成果が小さいのが常であることは世の理として心にとめておくべきでしょう。
 
いじめもそうですが、攻撃してきた人に対して報復するという行為はどうなのか?という点について作中では問いかけていました。
私としては報復はするべきだと思っています。報復そのものが正しいかどうかは一連の背景によるのでそれは置いておくとして、自分が攻撃されたときに行動する訓練をしておく必要があるからです。陰湿な攻撃は学生だけでなく社会人、老後でも起こるトラブルです。なのでそういった攻撃への対処方法を自身の経験として積み上げて磨いていく必要があります。これがもし誰かが助けてくれるのを待つしか手段を知らないでいると、誰も助けてくれない状況で攻撃されたときに対処出来ません。殺人のような過激な手段を取れる覚悟を持て、とまでは言いませんが自分が求める成果が上がる手段はどれなのかを経験として知っておくのは非常に有意義です。
実は去年私も先輩を排除したいシーンがありました。以前の反省から殺人はやめておき、上司に給与相当の現金を渡して自分を担当から外してもらう交渉をしようとしたのですがあえなく失敗してしまいました。これは賄賂に当たると当時の上司から指摘されたのでいい経験になりました。
 
小林さんの作品はつい考えたくなる部分が多くあるので気になる方は読んでみてください。