花の本棚

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乾ルカ おまえなんかに会いたくない

乾ルカ 「おまえなんかに会いたくない」
読書のコミュニティで紹介されていて面白そうだったので読んでみました。実は乾さんの作品を読むのは初めてです。
 

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ある高校の卒業生たちが同窓会にてタイムカプセルを開封する予定であった。10年ぶりの再会を楽しみにしているところに、当時いじめを受け転校したクラスメイトがタイムカプセルに遺言墨で書いた手紙を入れたと知らされる。その女子生徒はスクールカースト最下位でありながら最上位の男子に告白したことでいじめにあっていた。遺言墨で手紙を書くと相手に必ず伝わる代わりに受け手か書き手が死ぬという都市伝説であり、書かれているのはおそらく当時の彼女へのいじめのことであった。いじめはスクールカースト上位の生徒たちで行われていたため彼女たちは動揺し始めるというお話。
 
スクールカーストをテーマにした作品です。
10年前の学生生活と同窓会が刻々と迫ってくる現在の2つの視点で話が進んでいきます。学生生活の方ではカーストの上位の人、上位になりたい人、下位と同列になりたくない人などそれぞれの位置から遺言墨を書いた女子生徒をどう見ていたかが描かれています。自身の学生時代を思い返しながら読むと共感できる部分があるのではないでしょうか。
現在側のパートではかつてはカースト上位だったのに今になって下位の人間に脅かされる描写になっています。大人になってでも学生時代のカーストにどこまで固執していくのかという葛藤の描写は当事者の心情がリアルに描かれていて面白いです。
大人になってから振り返るとスクールカーストの価値を疑問視する方も多いですが、狭い世界で生きている中高生にとっては人としての価値と同等に見え一生続くように見えるのだろうと思いました。
 
作中にてカースト下位の人が上位の人へ告白したことをカーストエラーと見て憤慨するシーンがありました。そんなことで怒るなんて、と学生を微笑ましく思うかもしれませんが社会人であっても同じようなことをしています。
かつて後輩から飲み会の幹事の代役を依頼され、普段は引き受けていたのですがその時だけ断ったところ異常な剣幕で憤慨され揉めたことがありました。これが作中に出てきたカーストエラーの社会人版で、下位の私が上位に位置する後輩からの幹事(雑用)依頼を断ったことで憤慨するほどの屈辱を与えた構図になります。なぜこれが起きたのか当時考えたのですが、この後輩は私よりも先に昇格していたので人間としても下だと認識されていたのだと結論付けました。上記は一例ですが、同じような構図で相手を憤慨させてしまったことが今の会社で何度かありました。
カーストは自分より下位の人を認識してプライドを満たすためのものなので、私のようにプライドの高い人が集まりやすい職種の方は気を付けるべきだと思います。と言いつつ私もプライドが高めなので能力の低さについてはいくら蔑まれても文句は言いませんが、人間として対等だと思われないことは一切受け入れません。 
 
ここで気になるのが社会人にも存在するカーストがなぜスクールカーストだけ問題視されるかと言うことです。考えてみた結果、カーストの基準に違いがあるのではと思い至りました。
社会人のカーストは何で順位付けするかがその組織の価値観に依存します。実力主義であれば実力ですし、また実力と言っても仕事の種類は無数にあるのでどれを基準にするかによって順位が変動します。今まで重要視された仕事が時代の変動で廃れたり、年齢を重ねることで実力を発揮できなくなったりもするので常に順位が入れ替わるカーストと言えるでしょう。
一方で作中の説明によると学生のカーストは容姿だけで決まります。しかも10代なので上位勢の容姿が劣化し転落することはほぼなく学生生活中に覆すことはまず不可能でしょう。よって生活への影響度は学校に依存するにしても学生生活中一切変動しない順位でありそれを人としての価値だと思い違ってしまうことが問題なのだろうと考えました。
当時は気にしていたけど大人になってみるとスクールカーストは大したものじゃない、という意見になりやすいのはこういった根本的な仕組みの違いから来ているのでしょう。となると芸能界のように容姿の重要性が高い業界はスクールカーストをそのまま延長したような戦いになり生き抜くのは大変なのだろう、と思いました。
 
この作品はスクールカーストに思い入れや悩みがある方ほど読んでみた方が良いと思います。
素敵な作品を薦めていただきました。乾さんの他の作品も見てみようと思います。