花の本棚

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山田宗樹 存在しない時間の中で

山田宗樹 「存在しない時間の中で」
山田さんの作品の中で気になるものを見つけたので読んでみました。
 

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あるとき数物研究機構から衝撃的な数式の論文が発表され、それは謎の人物が書き残したものであった。もし正しければこの宇宙のすべては遥か上の次元にいる何者か、いわゆる「神」のような存在が設計、作成されたものであるという内容であった。当初は信じられなかったが、実験によって世界中で奇跡を起こすことに成功し世界は沸き立つ。しかし2度目の実験で10年後に今の世界は停止させるというメッセージが届く。世界は神のような存在によって本当に終わらされてしまうのか?というお話。
 
こちらはSF小説となります。
相手が上位の存在過ぎて人類にやれることは何もない、という雰囲気の中で人々が何を考え、行動し始めるかを描いています。読んでみるとまず世界観がかなり上手く作られています。山田さんのSF作品は世界観の作りこみが深くて凄いと読むたびに思います。主人公の一人が研究者ということもあって学術的な難しい説明が頻繁に出てきます。大変ではありますが理解して読むと面白いですし、理解しきれなくても作品自体は楽しめるようになっていました。
また本作の別のテーマとして「生きている意味」を描いているように読み取れました。終わりが避けられないと分かり、生きている意味を見失って恐怖と不安に駆られた人々が右往左往する姿が上手く描かれています。特に宗教団体に縋る人々にフォーカスが当たっていて、縋る人だけでなく団体側も本物の神が出て来てしまったせいで面目丸つぶれ状態で崩壊している描写はSFながらもリアリティあると感心しました。
 
作中にて自分の生きている意味について悩むシーンが多くありました。これについては私も含めて悩んだことのある方は多いと思います。
生きている意味はなくていいというのが考えた末の私の意見です。理由は生きている意味があったとしても、それが自分のやりたいことと違ったらむしろ邪魔になるからです。生きている意味は「その人しか出来ない事」と同等だと考えており、出来るからといってそれで満たされるかは別の話です。満たされないことを続けるのは嫌なので、まず自分のやりたいことをしていつの間にか意味がくっついていたら御の字くらいで私は十分です。
生きている意味を見つけたけど捨ててしまった私の実例を一つ紹介しましょう。私が社会人になり最初に配属された部署での事です。
当時の私は実力が乏しくてチームメンバーとしての役割を果たせていませんでした。ある時かつてないほど巨大なトラブルが起き、そのとき実務の方で役に立っていなかった私の使命は激務の先輩たちのパワハラを受け止めてストレス発散させることでした。当時の私はこれが自分の生きている意味だと認識していました。その後限界が来た私はパワハラで喜ぶなら自殺したら歓喜の渦だろう、という結論に辿り着き、遂行直前にこれだったら生きている意味は要らないと気づき踏みとどまることが出来ました。
このように、生きている意味というのは必ずしも人生に有益になるとは限りません。悩むのは良いと思いますが絶対に見つけないとダメと根詰めるべきではありません。
 
難しい説明も多いですが、そこを斜め読みしたとしても面白い作品ですので気になる方は読んでみてください。