花の本棚

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まさきとしか 大人になれない

まさきとしか 「大人になれない」
概要を読んで気になったため読んでみました。
 

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母親に捨てられた小学生が親戚の家で暮らすことになった。その家には無職の中年、引きこもり、毒親など早熟な少年から見ると生きている価値を感じられない人々ばかりであった。しかし自身も親から捨てられた身のため自分に生きている価値があるのかと悩み続けていた。それぞれが今の状況から何とかして前に進もうとする姿を描いたお話。
 
生きている価値をテーマにした作品です。
子供目線で投げかけることで大人たちに生きている意味について考えさせる形式でそれぞれの人物の内面を深堀しています。それぞれの人物もかつて輝かしい時期がありつつも居候になっているため、プライドなど過去のしがらみと向き合う姿はかなりリアルでした。
「生きている価値がない」と言われたら誰しも多少狼狽えてしまうところですが、自分はどうだろうかと思わず考えてしまいました。大人同士で言われたら険悪になりそうですが子供からとすることで上手く緩和されています。
帯にはミステリーと題されていますがミステリー要素は終盤に少しあるくらいです。話をおもしろく進めるために添えてあると考えるとよいと思います。
 
作中では「あなたに生きている価値はない」というセリフが多用されています。
本書では子供が大人に向かって言い放っていますが大人が使うと品性がないと言われていました。この意見は正しいと思いますが問題は別のところにもあり、そうだと知っている大人がそれを言うほどの何かが起きていることに大人としてちゃんと目を向けなくてはいけません。私も今の会社で最初に配属された部署で先輩から「辞めるか自殺するか選べ」と言われたことがありました。ここだけ聞くとブラック企業のように聞こえますが、その当時聞いてまわったときに同じ経験をした人が一人もいなかったのを考えると私がいかに人として規格外なほど社員として問題があったかが分かります。そういうわけで私は暴言のような言葉を聞いた時には理性が効かなくなるほどの事態があったのだろうと考えて行動するようにしています。
ただし、上記はあくまで「社会人として」の判断であり人間の尊厳とは別です。人間として対等な観点ならば他人に死を要求するのであれば逆側から死を要求される覚悟も持って然るべき。当時の私はこちらの考えが強くなりどちらかが死ぬまで戦う態勢になってしまったために色んな所に迷惑をかけてしまいました。私は今の会社以外を知りませんが会社での実力と人間としての序列を混同する方は非常に多い。こういった事例ははるか古代から存在するため私が生きている間に進歩しないでしょうから、自身が穢れないように努めるのみだと思います。
 
作中の人物たちが過去の栄光からなかなか抜けられないという描写が多く出てきます。
過去の栄光と聞くと縋り付いている人を思い浮かべてしまい悪いイメージの言葉ですが、現在の自分につながっているのであれば良いと思います。出来事の善し悪しがどちらにしてもそれを機に今のこの考え方をするようになった、今も関係が続いているなどがあれば持っていた方が良い思い出だと考えています。そういったものが積み重なることで人間性が深くなっていくような気がするので、栄光ばかりでなく悪くても自分にとってプラスになった出来事を話せばお酒の席も盛り上がるかもしれません。
 
私個人として読んだ後に色々と考えるところのある作品でした。