花の本棚

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澤村伊智 怖ガラセ屋サン

澤村伊智 「怖ガラセ屋サン」
知り合いに教えてもらって読んでみた作品です。

 

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「怖ガラセ屋サン」と呼ばれる都市伝説の怪談があった。依頼すると怖ガラセ屋サンが対象に深い恐怖を与え、その結果発狂したり消息不明になったりするという。
本作は「怖ガラセ屋サン」にまつわるホラー短編小説となっています。結局生きている人間が一番怖いと怪談を軽く見る人、自分は恐怖で人々を支配する側と思い込んでいる人、など自分が怖がることはないと自負する人々を怖がらせに行くというという短編を描いています。そのホラー描写は実際の出来事のようなリアリティも持ち合わせていて非常に上手い。
また恐怖に関する様々な考え方や捉え方も一緒に書かれているため、あまりホラー系を読まない私にとっては新しい発見もありためになりました。
 
作中でも出てきた「生きている人間が一番怖い」について意見を描いてみます。私としてはこれには全面的に同意します。
理由は二つありまして、一つ目は人生の中で自分に損害を与えてきたものが人間しかいないからです。死、病気、貧困など社会問題となったものも含め恐怖の候補は多くありますが、それらから損害というほどの被害を受けていないので恐怖の対象とは思っていません。明確に損害を受けたと認識した出来事はすべて人間から受けていることから一番怖いのは人間となります。単純な損害の大きさで見れば自然災害が一番になるのですが、予想も困難で破壊力も巨大すぎるため備えた上で被害を受けてしまったらもう仕方ないと思っているので恐れる対象と私は見ていません。
二つ目は人間だけが明確に意思を持って攻撃してくるからです。もっと言うと世の中のすべての恐怖対象の内ビジネスで言う5W1Hを計算しつくして攻撃するのは人間だけだということです。こちらがいくら避けたり備えたりしても目的のために掻い潜りながら攻撃してくる存在は人間の他にはないでしょう。
ということから私は人間を常に警戒しています。作中の章のひとつで「人間が一番怖いと言いながら皆簡単に気を許し過ぎている」と主張していてとても共感できました。
 
ホラーをそこまで読まない人でも問題なく読めると思うので、気になる方はぜひ読んでみてください。