花の本棚

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染井為人 黒い糸

染井為人 「黒い糸」
染井さんの新刊が出ていたのでさっそく買ってみました。8月末に気になる新刊がいくつか出てきたので新刊の投稿が続きそうです。

 



 
結婚相談所に勤めるシングルマザーの女性は怒りのあまり会員とトラブルを起こしてしまう。その会員から恨みを買った日から自宅に無言電話などの嫌がらせが始まり、息子を一人にすることも多いことから心労もあって多大に疲弊してしまう。そんな中で息子のクラスの女子生徒が失踪する事件が発生する。
一方で失踪事件の被害者のクラス担任は休職して行方をくらませており、代わりに担任を受け持つことになった男性教師がいた。彼はクラス委員の生徒から失踪事件の犯人について推理を聞かされる。子供の推理だと聞き流すにしては筋が通っていたので困惑していると、その生徒が何者かに襲撃される事件が発生してしまう、というお話。
 
ミステリー要素があるホラー系の作品となります。
明らかに違和感のある人物がいすぎてどれも犯人に見える、という得体の知れない不気味な雰囲気で終始描かれていて、主人公たちがどんどん疲弊していく姿は非常にリアルで読んでいて面白い。心理描写の描き方も非常に上手くて、それによってホラー感が深まって作品をより一層面白くしていました。作品全体が現実路線で描かれており、素人がいくら調べても謎が解明されるなんてことはなくむしろ増えていく一方というものでミステリーよりもホラーの部分がメインとして描かれているようでした。
物語中にはミステリー部分もありますが推理などは特にしなくて良いです。上記のように推理のための情報が集まってくる描写もあまりないので、話を面白くするために添えてあるという認識でOKです。
 
作中にて男性教師の兄の主張の一つに理性で本能を抑えるのは必ず限界がある、と語っていました。例えば幼少期に癇癪持ちだった子が癇癪を理性で抑えて大人しくなった場合、歳を重ねて理性が衰えた時に再び癇癪持ちに戻るのだそうです。この考えは説得力あると思いました。
私の知っている情報ですと、人間は30代後半あたりから脳が衰え始めて感情のブレーキがかかりにくくなるそうです。つまり我慢以外の抑え方を身に着けないと30代後半あたりから子供の頃に克服した部分が徐々にぶり返してくることになるでしょう。最近私の会社でも更年期障害についての講習がありまして、男女関係なく30後半~40後半あたりでホルモンバランスが崩れて体や精神に支障を来たすのでまずは理解を深めましょうというお話があったので強ちこの説は間違いでもないのかなと考えています。
ちなみに「年齢を重ねて丸くなる人」というのは感情コントロールが上手くなったのではなくて、単に体力が衰えて元気がなくなって人と感情的に向き合うのが億劫になった人なので理性的というわけではありません。こういったタイプは消耗が少ないタイピングやフリックといったネットの場であれば見違えるほど感情的になってくるので油断しないように気を付けましょう。
 
ホラー系と紹介しましたが、身構えるほど恐ろしい内容ではないので気になる方はチェックしてみてください。