花の本棚

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雫井脩介 霧をはらう

雫井脩介 「霧をはらう」
新刊が出ていたので久しぶりに雫井さんの作品を読みました。

 

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ある病院にて点滴にインスリンを混入して子供二人が死亡する事件が起きた。事件当時に居合わせた人物のうち、自分の子供の点滴だけ止めていたということからその子の母親が逮捕される。彼女は冤罪であると主張するが一度犯行を自白していること、精神鑑定の結果、動機、状況証拠などあらゆる点で彼女が疑わしい。主人公の弁護士はそれでも彼女が無実と信じて裁判に取り組む、というお話 
 
冤罪をテーマにした作品です。
本書の帯に「冤罪が産まれるとしたらそれは弁護人のせいだ」と書いてあり、冤罪系の作品は誤認逮捕のイメージしかなかったので裁判の方にフォーカスが当たっているのは珍しい。
全体として読みやすくて内容が分かりやすい。大掛かりな仕掛けなどがあるわけではないので気軽に読めます。見所は実娘を含め誰もが母親を犯人と疑っていないところを徐々に解いていく場面の描写です。この母親は「誤解されやすい人」と描写されていて、その部分を解いていく描写は読んでいて面白いです。
薬物を点滴に入れた犯人は誰なのか?の部分はそこまで深いミステリー部分ではないので推理などは不要でした。話を面白くするために添えてある程度という見方で良いです。
 
作中にて逮捕された母親が誤解されやすい性格を嘆いている場面がありました。誤解されやすい人、と自称する人への私の印象は最悪です。誤解されやすい行動をわざわざ選び続けている時点で人格がまともじゃない。
何か行動して誤解されたらそれを止めるか別の行動を考えるはずです。それを周囲の理解不足で自分は悪くないと判断して行動を続けるのは悪意のある行動を敢えてやっていることになります。これは周囲の理解が満場一致であなたを否定的に見る行動をしているだけでそもそも誤解とは呼びません。誤解されやすいと言うことで「行動は悪く取られがちだけど実は良い人」という雰囲気をだしていますが、上記のように考えると良い人である可能性は0です。以前別の作品で「根は良い人は存在しない」という話をしたときと論調が似ていますね。
仮に本当に良い人だったとしても無自覚に誤解される悪意ある行動をしてくる人とは関わってもいいことがないです。世の中には誤解される行動をしない良い人が無数にいるのでわざわざその人との付き合いを選ぶ必要はない。作中では母親が誤解されやすい人だから自分たちも疎まれる、と娘が憤っていてとても可哀そうでした。子供が疎まれ憤っても誤解する行動を考え直すきっかけにならないなんて、誤解されやすい人は害悪だな、と私は読んでいてあらためて思いました。
 
久しぶりに読むと雫井さんの作品は良いなとあらためて思いました。気軽に読めるのでサクッと読みたいときにおススメです。