花の本棚

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桜井美奈 殺した夫が帰ってきました

桜井美奈 「殺した夫が帰ってきました」
タイトルが気になって買ってみました。
 

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主人公の女性が仕事から帰ると行方不明となっていた夫が突然現れる。夫はかつて彼女自身が崖から突き落として殺害したはずだった。話を聞くと彼は怪我の後遺症で記憶を失っているとのことで突き落とされたことは覚えていないようであった。仕方なく彼と暮らし始めてみるとかつてDVを振るってきた面影はなくなっていた。しかしこちらに来たばかりなのに親しい警察官がいたり、外出先を隠したりと彼の不審な行動を見かけてしまい、実は記憶が戻っているのではと疑い始める、というお話。
 
幸せをテーマにして書かれたミステリー系の作品です。
主人公の女性が今の自分が幸せなのかを苦悩しながら話が進んでいきます。記憶喪失の夫との生活は意外にも幸せだけど、記憶が戻ったらあるいは既に戻った上での演技だったら…という描写は読んでいて面白いです。終盤に真相が分かると驚かされますので、最後まで飽きずに読めます。
本作では荒んだ家庭で育った人が幸せになるにはどうしたらいいのか?についての描写が多くあります。荒んだ家庭は連鎖するという話を聞きますが、そういった人々は自身の幸せについてどう考えているのかが描かれています。どうしたら幸せになれるのかが分からない、仮に手にしても幸せが崩れるのが怖いから最初から望まない、といった心情が非常にリアルに描写されていて自分の知らない世界を知ることが出来てためになりました。
 
全体として軽めでありながらミステリーとしての質が高い作品でしたのでおススメです。