花の本棚

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神津凛子 黙認

神津凛子 「黙認」
神津さんの新刊が出ていたので読んでみました。
 

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ある男性がコーヒーショップの店員に一目惚れして交際を始める。彼は幼い頃から社長である母親から虐待とも言えるほど厳しい教育を受けており、愛情を知らない自分が彼女を幸せにできるか不安を持っていた。
一方で姉に大切な人が出来たと知った弟はそれが気に入らなかった。母の怪我からの復帰祝いの場で姉の恋人と対面するが、今までの姉の好みとあまりに違うこともありどうにも信用ならなかった。そこで親友と一緒にその男性を探ってみると、彼の家族の周辺では不可解な死亡事件が多発していることが判明する。姉の恋人は殺人鬼なのではと疑問を持ち正体を探るというお話。
 
家族間の愛憎を描いたホラーテイストの作品です。
神津さんの作品はオゾミスと称されていて描写の生々しい不気味さが見所です。他の作品は日常の中にある不気味さを描いているものが多かったのですが、本作は古い価値観が根強く残る片田舎の不気味さをメインに描いています。今までおぞましい描写に注力されている印象だったのですが、本作では家族愛を描いた部分があります。こちらも非常に上手くて、神津さんの新しい一面を見た気分でした。とはいえ描写の比率は「憎(元愛も含め)」の方が高いです。
ミステリーとして見ても質が高くて、姉の恋人の正体を巡っての二転三転する展開は読んでいて面白いです。
本作のテーマとして「見て見ぬふり」があります。目撃した時に自分がアクションしていれば後の悲惨な状況を回避できたかもしれない、と自責に駆られる人々が思いを吐露する場面がいくつかありこちらも生々しくてリアルでした。このあたりは子供の虐待など当事者以外が声を上げることで解決しようと動いている社会問題への提起として描かれているのかなという印象でした。
 
「見て見ぬふり」がテーマになっていることは上に書きました。
私自身は見て見ぬふりが出来ずアクションを起こしてしまうタイプです。余計なお世話だったときはそのときに謝罪すれば良くて、見てしまった自分が何をすべきか考えた結果に忠実に行動しています。すごく勝手な考えですが「目に入ってしまったのも何かの縁だろう」と考えています。
では「見て見ぬふり」が悪いことなのか?というと日本人の気質にあったやり方だと私は思っています。日本では「郷に入っては郷に従え」という考えが根強いので他の家のやり方に口を出す風習になっていないからです。嫌な言い方をすると自分の周りが安全であれば良くて、その周囲(地域)まで
を良くしようと考える人はかなり少数派です。このあたりは経済的な余裕などは関係なく日本人の古くからの気質から来ていると私は思っています。こう考えると時々見かける「地域で○○を見守ろう」といった活動は日本ではまず流行らないと見ていいでしょう。
 
イヤミスが好きな方におススメの作品です。