花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

まさきとしか あの日、君は何をした

まさきとしか 「あの日、君は何をした」
まさきさんの作品で一番新しいものになります。
 

f:id:flower_bookmark:20200919223331j:plain


ある母親は息子を事故で失くしてしまう。夜中に出かけたときに殺人事件の犯人と間違われたことが原因であったが、息子が非行少年のように世間で取り扱われているのが納得できず家の外でどんな生活をしていたか探り始める。
そこから15年後、殺害されたある女性と不倫関係にあった男性が行方不明となる。息子はそんな人間ではないと母親が行方を探し始める。似た行動をする二人の母親の心情を描きながら事件の真相を追うというお話。
 
家族愛をテーマにしたミステリー小説です。
家族愛と表現していますが描いているのは歪んだ母親から息子への愛なので全体的におぞましい雰囲気になっています。またメインになる母親が二人おり、保護者としての母親と姑としての母親と違う立場の狂気に近いような心情が上手く描かれています。私はリアルな心理描写が読めて楽しむことが出来ましたが、息子を持つ母親の方が読んでみたらどういった感想をお持ちになるのかは気になるところです。
ミステリーとして見ても話しの繋げ方が上手いです。他の作品では話を面白くするために添えてある程度だったこともあったのですが本作は上手いと感じる部分も多く驚く展開もありました。
 
作中では思い込んだままを確認せずに行動をどんどん起こしていく人物が描かれています。事実を知ってしまうのが怖いから確認せずに自分に都合のいい考えだけで行動していると説明されていました。
事実を確認しようとしない人を見るたびに不思議でしょうがなかったのですが、本書を読んでみたら納得しました。おそらく大半の事例では事実が見えてないかのように振舞っているだけで本人はとうに知っているのでしょう。
私が思うに上記とは別にもう一つ事実を確認しないパターンがあると思っていて、確認しないことで話のネタにできるというのがあります。これにありがちなのは「〇〇さんに嫌われている」という相談(愚痴?)です。そんなのさっさと本人に確認しなよ、と思うのですが「今度はこんなことされた」という会話のネタとして何度も使えるために本人も解決する気はさらさらないようです。たぶんですがそういった形でしかコミュニケーションが出来ないからだろうと思っています。このコミュニケーションだとネガティブなネタをいつまでも引っ張ことになるので私は好きじゃない。
 
作中にて「~~な目にあったことのないあなたには分からない」という言い回しが何度か出てきます。
この言い方をされると「じゃぁ、分かる人に話せば」と冷たくあしらいたくなります。理解出来なくとも理解しようとする姿勢を持つのは大事ですが、この言い方は理解しようとする人を拒否する物言いとなります。それなら自分で同じ経験をした人を探して吐き出せばいい、と私は思うのでこれを言われたら絶縁しますね。
私の見た限り「理解できない=嫌い」と考えている人が結構いるようです。これは想像ですが共感を強く求めるタイプの人は理解と好き嫌いがほぼ同等なのだと思います。私の意見では理解と好き嫌いは別の次元なので「理解できないけど嫌いではない」は変じゃないと思っています。今は多様性の時代なので自分の理解の範疇を超えた人などいくらでも出てくるので、いちいち理解し切ろうとしたら疲れてしまいます。
 
この作品は心理描写部分だけでなくミステリーとしても面白いのでおススメです。