花の本棚

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中山七里 銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2

中山七里 「銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2」
前作を読んで面白かったので続編を読んでみました。
 

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元判事の静おばあちゃんと車いすに乗った玄太郎爺ちゃんが事件を解決していく短編集となっています。今作は孤独死、介護、運転免許返納など高齢者に関係する問題が各章のテーマになっています。
ただ事件を解決するだけでなくその裏にある人々の思いを汲み取っている描写が多くあるため、人情味のあるミステリーとなっています。最後の章ではそれまで短編集の内容とつながった展開となるため、単純にミステリーとしても良く出来ている作品です。
ミステリー部分も面白いですが、主役二人が語る人生観がとてもためになります。今の現役世代の人たちが忘れてしまいがちな考え方を教えてくれています。前作は玄太郎爺ちゃんが暴れながらも筋を通している描写がメインでしたが、今作はこちらにフォーカスが当たっているという印象でした。
 
作中にて今の高齢者は労働に恵まれていたから不平等だ、という話が出てきます。
昔の環境が今より良いと感じるかは人によると思っています。ただ、私は「人による」で終わらせるのが嫌いなのでどういう人だったら昔の方が良いと感じるかを考えてみました。
一つ思い当たったのは刺激的な方法でストレス発散をしたがる自制心の弱い人たちは昔の方が良いと感じると思います。今ではオフィスやお店が禁煙だったり、パワハラやセクハラ、家庭内暴力などに厳しくなりましたが昔はいずれも平然と出来ました(と聞いています)。つまり環境自体は今よりも不便でありハードですが、その分過激な発散方法が許されていたということです。こういったことをやりたいけど出来ないと燻っている人たちには昔の環境の方が羨ましいのではないでしょうか。私はこのタイプではないのであくまで想像ですが。
 
作中にて問題を大きく見せて味方を作ろうとするのは1対1で戦う勇気がないから、というセリフがありました。当事者同士でぶつかれば済みそうな話をわざわざネットに持ち込むのが私には理解できませんでしたが、この言葉に納得しました。おそらく真っ向勝負では負けると分かるくらいに自分に非があるからぶつかるより先に味方を集めようと考えるのでしょう。
私は人と戦うときに味方を集めようとは思いません。ほとんどの個人的な問題は1対1で戦えば済みますので、味方を集めや寄せ集めの統率に使う労力が面倒臭いです。私としては味方を集めないと戦えない時点で自分には不相応な私利私欲を満たそうとしていると考えています。「身の丈をわきまえない」は人生の中で大惨事が起きる要因の一つなので、欲望に飲まれないように気を付けたいですね。
 
ミステリーとしてだけでなく、かつての日本人たちが大事にしていたことの教示としても読めるのでおススメです。