花の本棚

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下村敦史 同姓同名

下村敦史 「同姓同名」
下村さんの作品で題材が面白そうな作品があったので読んでみました。
 

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少女を惨殺したのが少年だったので実名が出なかったのだが、SNSにて「大山正紀」であると拡散されてしまう。その影響はすさまじく、同姓同名の人々が実生活で嫌がらせや拒絶を受けるようになる。
月日が経ち犯人の少年が刑期を終えたことで再び「大山正紀」が再燃したことを期に、同姓同名の一人が「大山正紀同姓同名被害者の会」を立ち上げる。なんとか状況を打破するために本物の犯人を見つけ出そうとする、というお話。
 
名前をテーマにしたミステリー小説です。
同姓同名を利用した色々な仕掛けが見所です。常に何かしらの仕掛けがある上で物語が展開されていくので最初から最後まで飽きがありませんでした。ちゃんと読めば真相を当てることも可能なので紙とペンを片手に推理してみるも良し。推理せずに展開を楽しんでも良しという内容でした。
ミステリー部分も面白いですが、職場に同じ姓がいたときに「優秀な方の〇〇」という言い方をされるのは苦しい、有名人と同姓同名で名乗るのがつらい、といった名前に関する悩みや問題についても書かれています。私は姓が珍しいためそういった状況にはなったことがないので読んでいて新しい視点や発見がありました。
一点気を付けたいのはすでにお気づきでしょうが同姓同名の人物が多く出てくるので人物把握に苦労があります。本作は意図してそうなっているので悪い点にはならないのですが、登場人物の名前付けは読みやすさを決める点で重要だと改めて思いました。
 
作中にて犯罪者と同じ名前だったらキラキラネームの方が良かった、というセリフがありました。キラキラネームが問題視されてからもう随分と経ち、たまにテレビで見るようになりました。善し悪しについては議論が尽くされたと思うので私がキラキラネームについて思うことを書いてみます。
子の名前を好きに付けるのは問題ないと思いますが、この「好きにしていい」というのは当事者の欲望が強く出てくると考えています。仮にキラキラネームを付けられてしまった人がいたら、その人の親は「子が名前で嫌な目に会うリスク」と「自分がこの名前を付けたい欲望」を比べて後者が勝つ強欲な親だと推測できます。付けられた当人の人間性とは別なのでその人自体は問題視しませんが、家族ぐるみの付き合いなどその親と接触するのは拒否するでしょう。
現在のコロナ拡大に対しての行動もそうですが「好きにしていい」と言われたときに自身の欲望しか考えない人とは関わりたくない、というのが私の意見です。
 
題材が面白い作品ですので気になった方は読んでみてください。