花の本棚

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遠田潤子 雪の鉄樹

遠田潤子 「雪の鉄樹」
以前遠田さんの作品がよかったので別の作品を読んでみました。
 

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主人公は庭師の男性。彼は過去に起きた事件の償いとして一人の少年の世話役を赤子のときからしていた。しかし少年の祖母からは奴隷のような扱いをされていて周囲からも憐れみの目で見られていた。あるとき少年に秘密にしていた事件のことを知られてしまい、さらに祖母も亡くなったことで少年は荒み始めてしまった。男性は少年の求めに応じて秘密にしていた過去の事件のことを話し始める、というお話。
 
贖罪をテーマにした作品です。
過去の償いのために何かせずにはいられないけど報われることはない、という状況の主人公の心情を上手く描いています。愚直な性格という設定だとしてもあまりに度が過ぎて不憫さを感じずにはいられませんでした。
作中には主人公の他にも一貫して冷徹な祖母など偏屈でキャラの濃い人物が多く登場します。前に読んだ「冬雷」もそうでしたが、遠田さんはこの類の人物の描写が非常に上手い。それぞれの偏った価値観で言葉を発するため嫌な気分になることもありますが、時折自分の価値観に深く刺さる言葉も出てくるので面白いです。
 
作中で老婆が主人公を徹底的に拒否して「あなたを人間として扱わない」と告げ、ここまで冷徹に人を拒絶できるのかと主人公が驚くシーンがあります。
この老婆のしていることが人を嫌悪したときの私と酷似しており共感できました。そして周囲から何を言われても一貫して冷徹さを貫く姿勢は私には素敵に映りました。これこそが謝罪をする側とされる側の正しい姿だと私は考えています。謝罪して許されるかは相手側の基準がすべてです。よって相手の要求がどれだけ法外でも理不尽であってもその通りにするしかないのです。謝罪する側なのに「もう勘弁してくれ」とか「こんなに謝罪しているのに許さないのか」などと言い出す人がいますが、相手を悪者のように仕立てて謝罪を値切るなど言語道断です。そうするくらいなら最初から謝罪などせず自分は悪くないと堂々と生きればいい。
私は嫌悪する人間が謝罪してきたとき「死んだら許す」と必ず言っています。これなら何をすべきか明確ですし、嫌なら私から去ればよくどっちを選んでいただいても私にはプラスなので問題ないです。
 
遠田さんの作品はこれで二つ目となり作風が気に入ったのでいろいろと読んでみようと思います。