花の本棚

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桐野夏生 優しいおとな

桐野夏生 「優しいおとな」
こちらの作品が面白いと聞いたので買ってみました。

 



 
少年イオンはスラムと化したシブヤで野宿生活をしていた。ホームレスを支援する団体やホームレスの集まりにも頼らず頑なに一人で生きていくことを選んでいる。イオンは「優しいおとな」を探し求めておりNGOメンバーの男性がそれにあたるのかもと期待していたが、彼の大事なものを持ちだして捨てたことを赦してもらえなかったためにショックを受ける。
たった一人の大人に見放されただけで弱ってしまった自分に落ち込んでいたところ、かつて憧れた兄弟が地下で暮らしているかもしれないと知り彼らの後を追う、というお話。
 
本作の見所は子供たちの心理描写が非常に上手い点にあります。一見逞しく生きているように見える主人公の少年が実は精神的に年相応以上に脆かったり、他の子供が優しくされているのを見て嫉妬していたり、などの描写は子供たちの繊細で不安定な心理を描いていて面白いです。お子さんがいる方が読むと色々と思うところがあり、私とは違った楽しみ方ができるかもしれません。
また大人たちが子供に対してどう接し、何を考えているかの描写が多くあります。子供を助けようとする大人や子供を邪険に扱う大人といった色々な大人が作中には登場しており、主人公の探す「優しいおとな」はいるのか?という点も本作の見所になるかと思います。
 

子供と大人の関係性をテーマにした作品となります。
作中にて主人公の少年が「優しいおとな」の定義を「何か悪いことをしたときに謝ったら許してくれる大人」だと語っていました。この定義は大人同士では到底通用しない考え方であり、あくまで子供が思う「優しいおとな」の像だと考えた方が良いでしょう。
私としては「謝る」と「許す」は何も関係ないと考えています。「許す」という行為は相手がした償い行為を評価し、自身が持つ「許す」の基準に到達するまで許さない、という流れの行為だと私は考えています。償い行為をするごとに点数が加算されていき、基準点に達したら「許す」が成立するというイメージです。どういった行為がどれくらいの点数なのかが個人の価値観で変わるのが当然であり、私の価値観では「謝る」は当然の行為なので0点、むしろ謝り方次第ではマイナスと認識しています。私にとって許さない=死んで欲しいという価値観なので「謝る暇があったら自殺しろ」と言ってしまうでしょうね。
作中のように相手が子供であれば行動力がないのでそんな要求はしませんが、大人相手なら死ぬまで許さないか「それをしてくれるなら、生きているのを認める価値がある」と思える償いをしたら許すのが私のスタンスです。
 
私は桐野さんの作品を初めて読みましたが非常に楽しめたので、気になる方はチェックしてみてください。