花の本棚

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櫛木理宇 虎を追う

櫛木理宇 「虎を追う」
あらすじが気になったので読んでみました。
 

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死刑判決の出ている犯人二人のうちの一人が獄中で病死した。かつてその事件の捜査に携わっていた元捜査官は免罪なのではと疑問を持ち続けており、彼の死を機に調査しなおすことを決める。一度風化した事件の再調査するためには世論を動かす必要があると教わったため、大学生の孫とその友人に協力を仰ぐ。その方法はSNSと動画投稿によって再調査の様子をリアルタイムで世間に流すというものであった。風化した事件を再び呼び起こし真相を探るというお話。
 
こちらはミステリー小説となります。主役グループに現役警官がいないので刑事物ではありませんでした。
免罪を晴らす系の作品というと大抵は刑事が同僚や上官に邪魔されながら奮闘する、という流れですがこちらは設定上そういった描写がほとんどない点が斬新です。SNSを使って注目度を高めて協力者を増やしていくなど現代ツールが多く登場するのでこんな使い方出来るのだなと感心する場面も多くありました。
孫の友人が引きこもりという設定なのですが、再調査を通して変わっていくところも本作の見所です。何とかして今の自分を変えようとする姿はとても素敵に映りました。
 
作中の動画を作る場面で孫たちの説明で、ウケる動画のコンテンツは笑い、エロ、暴力が三強とのこと。
動画の上げるために不適切な行動をする人が時々報道されますが、上記コンテンツが強いのだとしたら納得できます。というのも手っ取り早くやろうとしたら暴力を選ぶしかないからです。
まず「笑い」ですがこれは長年磨いたセンスでしか出せないコンテンツなので鍛錬を積む必要があります。次にエロですが厳密には「男性向けのエロ」を指しているので男性はそもそも手が出ません。
一方暴力なら勢いで実行するだけなので、周囲に煽ってもらったり酒の力を使えば誰でも実行は出来ます(その後が大変ですが)。ということから何でもいいから注目を集めたくなったら暴力が最速となります。昔から自己顕示欲が強い人が起こした事件は多くあるので、その縮小版が動画で多く出てくるようになったのかもしれませんね。
 
作中にて年下としか人付き合い出来ない人は問題がある、という話が出てきました。このタイプの人はグループの中に自分より上がいることに耐えられず、支配欲も強く、幼児を狙う犯罪者によくある心理だと解説されていました。知り合いにやたらと後輩とだけ関係を築きたがる人がいましたが、こんなことを考えていたのかなと思ってしまいました。
私はコミュニティの中で上か下かは考えたことがありませんでした。人としては皆対等であるべきだと常に考えています。自分とは違う人生を歩んだ人なのだから何かしら自分にないものを持っているはずで、それは尊敬すべきところだと考えています。
仮に実力で上下を決めるにしても何を基準にするかで序列は変わってしまうので意味はない、というのが私の意見です。
 
櫛木さんの作品はいくつか読んだことがありますが、こちらも含め良い作品が多いのでおススメです。