花の本棚

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芦沢央 いつかの人質

芦沢央 「いつかの人質」
本屋さんのコーナーで見つけて買ってみました。

 

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キッズパークに来ていた少女が誘拐される事件が発生し、後に保護されるがそのときの怪我で失明してしまう。それから12年後、その少女はライブ会場で再び誘拐される。
その一方で漫画家の男性が突然家を出た妻を探していた。彼女は12年前の誘拐事件の犯人の娘であり、そのときの出来事をネタにした漫画を描いていた。ホストでの借金が理由と書き残していたが、彼女の本心がそうであるとはとても思えなかった。
かつての被害者と加害者が関わっている事件の真相を探るというお話。

ミステリー小説と題していますが人物の心理描写のうまさが見どころの作品です。
主要人物3人の視点で話が進んでいき、それぞれの心境がとても良く描かれています。
読んでみた感じでは漫画家の夫の考え方にどういう印象を持つかで作品の印象が変わると思います。不気味に感じる方には少し狂気を帯びた作品に思えるかもしれません。私はこの人物の考え方は大いにアリだと思ったので面白く読めました。
ミステリーとしてみると登場人物少ないので犯人当ては簡単ですが、動機を当てるのは難しいと思います。自信のある方はそちらも挑戦してみると良いです。

作中にて「困ったら人を頼ろうではなく、困らないように備えなくてはならなかった」という言葉が出てきます。
弱い立場の方々を守ろうとするのは良いのですが、その人たちは弱い立場を利用して偉そうに踏ん反りかえっていないか?という問いかけに見えました。周りから助けてもらえなくて世間の冷たさを感じた、という体験談がネットニュースになっているのを何度か見たことがありますが、日頃助けてもらえてる有難みを感じたという方向に話がいかないのが納得いかない。常に助けてもらえるお姫様みたいな立場だったらそもそも弱い立場ではないと思う。
自分の力でどうにかならない状況が来たら死ぬだけ、と考えているので私は人の助けを期待したことは今まで一度もありません。

本線とは外れますが、作中に言葉通りの解釈をするのは人の気持ちを汲めていない、という言われてしまう場面があります。曰く、言葉のその奥にある感情を読み取れるのが立派な大人、とのこと。
それが出来たら聞く側としての立派なスキルになると思います。ですが話す側から見ると言葉通りに解釈されたら困ることを口にしたらダメだと私は思っています。自分の言葉に責任持てない人が社会に出てもかなり多いと感じています。どういった心境でそうなるのかは分かりませんが、私は発した言葉には責任を持ちます。例えばの話、私が誰かに「死ね」と言って次の日にそれが原因で死んでしまっても、死んでほしいから言いましたとハッキリ言います。自分の想いを表に出す行動も取ってないのに気持ちを察してもらおう、というのは愚かです。

内容そのものはライトに出来ているので、サクッと読みたいときに手を出せる作品です。