花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

春口裕子 行方

春口裕子 「行方」
以前この著者の「悪母」が良かったので別の作品を読んでみました。



パートで遅くなるからと保育園に預けていた娘が公園で行方不明となった。ママ友の一人が自分の娘と遊ばせるために保育園から公園に連れ出したが、目を離した際に彼女の娘と一緒にいなくなってしまう。後にママ友の娘だけが発見されたため、ママ友を問い詰めるが脈絡のない返答ばかりで、娘の情報は何も出てこない。娘は無事なのか?どこに行ってしまったのか?というお話です。

これは心理描写を中心としたサスペンス系の作品です。
見どころは子どもがいなくなったことに対する登場人物たちの心情の描写が上手いところ。両親、親族、そしてママ友たちが何を考えているのかは実にリアルです。これらの中で一番面白いのはママ友の心情。自分の子じゃなくて良かったという安心感、自分は悪くないと保身に走る姿はモデルがいるのではと思うくらい醜く描かれています。「悪母」もそうでしたがこの著者はママ友の悪い面を描くのがすごく上手い。これだったらママ友は作らない方が良いと思えるくらいです。
なおミステリーっぽい要素もあるにはあるんですが、読んでる途中で結末は丸わかりなので気にしなくていいです。

本の中でも日常生活でもですが保身に走ってる場面って私には非常に醜く見えます。汚物を見てるような感覚になります。
ならあなたは保身したことないのか?と聞かれそうですが、社会の一員として責任を取らないといけない年齢になってからは一度もありません。
なぜなら自分の身に守る価値はないと思っているからです。保身するということは自分の身に何かしら大事にする理由があるからするものだという認識で、そう考えると私の身は醜い姿晒してまで大事にする価値はないです。だったら潔さを通して信念を守る方が価値があります。

読んでいると本書の中で一つ共感できる考え方がありました。
「誰も頼らず悩みも痛みも自分で飲み込んで、自分で答えを出してきた」というフレーズ。
今の私の立ち振る舞いと似ている。今までの人生で人に頼って何かを乗り越えたことはおそらくないです。
悩みは自分の中で処理して行動していて、痛みも普通なら死んでしまうような大きさでも精神力で耐えてる間に原因を処理してしまったりしています。事が終わった後でこんなことあったんだよね、という人に披露することはありますが、渦中にいるときは独りで解決します。
というのもあって人に悲痛な部分を見せないので「一度も苦労したことがなさそうな顔してる」とよく言われます。

話の前半と後半で視点が変わるのもまた面白い。前半は親視点で、後半は子視点となります。
全体を見ると悩みを抱えやすい、または抱えてる方が読むと共感できる部分が多いかと思います。
前半部分は子どもが小さい方には興味深い内容なので、そこを目当てに読むのも良いと思います。