マシュー・サイド 「失敗の科学」
会社の書籍紹介で面白そうな書籍を見つけたので買ってみました。
失敗に対して組織としてどう向き合い、学習していくかを解説しています。失敗がどのようにして発生しその後失敗に対してどのように向き合ったかを業界別に紹介しつつ、学習していく組織にしたい場合どうするのが良いかを解説しているという流れです。
大項目と一言でのまとめは以下となります。
1. 大きな失敗が起きるまでに何があったのか
怠慢や逃げよりも、目の前のことに集中しすぎることで大きな失敗に繋がる。責任感の強い人ほど陥りやすい。
2. 失敗が見つかった時にやってしまいがちなこと
失敗を見つけた時によく起きる反応を紹介している。以下に一部を記載しているが、これらは人間の防衛本能なので根絶は不可能だと認識した上で向き合い方を考える必要がある
・出来事を改変する
人の記憶は本人に都合よく改変される。責任逃れや隠ぺいなどではなく本人にとってそれが事実だと認識している。
・犯人探しをする
失敗と向き合うのは当事者たちにとって精神的苦痛が大きいので、一番苦痛の少ない犯人探しに流れやすい。
3. 失敗から改善するときの考え方
失敗を組織としてどのように考えるのが良いかを多く紹介している。以下はその一部
・失敗は「してもいい」ではなく「欠かせない」
「してもいい」だと「しない人が偉い」というニュアンスになる
・施策を重ねて少しずつ改善する
「一発で全部解決する施策」ではなく、たくさんの施策を積み重ねて良くしていく姿勢が大事
といった内容です。
失敗から学ぶ組織の例として航空業界、失敗を隠ぺいする組織の例として医療業界を対比として実例を出しているので非常に説得力の高い内容になっています。失敗と向き合わないのはプロとして自覚がないから、とイメージしていたのですが実際はプロとしての責任やプライドが高いほど失敗から学べなくなる傾向にあるようです。実例の紹介は多くあるのですが、実際にどのように失敗と向き合う組織を作るかについてはあまり書かれていません。こういう考え方をしましょう、と紹介されている程度であり、具体的な方法や仕組は書かれていませんので注意しましょう。
私個人的に読み取ったのは、「失敗から学ぶ」ができるかどうかは人間性への依存が強いから組織の仕組みで失敗から学べるようにした方が良いと主張しているのだろうという印象でした。もし個人の能力だったら「失敗から学習する部下の育て方」とか「失敗から学習するのが9割」みたいな自己啓発本が出てそうですが、調べたところないようです。
上で「失敗から学ぶ」ができるかどうかは人間性への依存が強い、と書いた理由についてもう少し考えをまとめるために書いてみます。
そう考えた理由は、失敗と向き合うために重要なのは忍耐力と自制心だと言っているように読み取れたからです。
まず忍耐力について話すと、失敗と向き合うのは強いストレスがかかるからです。本書の中では「大きい課題は小さく分解して、徐々に改善する」と紹介されていました。つまり失敗の規模が大きいほど解決まで時間がかかるということです。人間誰しも自分がやらかした事と向き合うのはストレスであり、辞職などに逃げずに失敗と向き合い続けて解決しきるのは相当な忍耐力が必要です。
次に自制心についてですが、失敗を解決するまでのプロセス上に自分を抑える場面が多くあるからです。失敗が露呈する恥ずかしさ、何も関わっていないのに偉そうに失敗にコメントしてくる人々への怒りと屈辱感、などプロとしてのプライドが高い人ほど感情的になりやすい場面が数多くあります。中でも失敗と向き合う苦痛から早く解放されたいがために安易な結論に飛びつきたくなる誘惑を抑えるのは非常に難しいそうです。そういった中で今後チームが同じ失敗を繰り返さないために失敗と向き合うには、個人的な感情を抑える自制心が無くてはならないだろうと私は考えています。
この二つはどちらも社内研修や勉強で身に付くようなスキルではなく、個々人が持つ人間性によって強弱が決まる部分なのは間違いないでしょう。本書が世界的に売れているのに薄っぺらい自己啓発本が便乗出版されていないのはそういった背景だからかな、と私は解釈しました。
失敗と向き合うのは「言うは易く行うは難し」なので、まずは第一歩として本書を読むと良さそうです。