花の本棚

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薬丸岳 籠の中のふたり

薬丸岳 「籠の中のふたり」
薬丸さんの新刊が発売されていたので買ってみました。

 



 
主人公の弁護士はあるとき傷害致死事件を起こして仮釈放となった従兄弟の身元引受人に引き受けることになった。幼少の頃に自分が原因で母親が自殺してしまったために人付き合いを避け続けていたが、かつての同級生と交流するようになるなど明るい性格である従兄弟から影響を受けて少しずつ人付き合いをするようになっていく。
ある時亡くなった父親の部屋にあった母親からの手紙を読むと、血のつながった本当の父親が別にいると知ってしまう。また従兄弟には事件後も帰りを待つ人々がいたと分かり、十年以上も会っていない自分を身元引受人に指定してきたことに疑問を持ち始める、というお話。
 
過去の過ちとの向き合い方をテーマとした作品になります。
母が亡くなった原因になったことを悔いる主人公と、犯罪者となってしまった従兄弟を対比した心理描写の上手さが本作の見所となります。罪を犯したはずなのに明るい性格のままである従兄弟に苛立っている様子はリアルで、現代社会での犯罪者に対する世間の目を表しているようにも見えました。
また本作は「ハートフルな物語」と出版社の紹介には書かれています。読んでみると心温まるようなストーリーになっているため、最後まで読むと感動的な物語となっています。薬丸さんの作品は救いが少しある終わり方が多い印象の中でここまでハートフルを前面に出しているのは珍しい。その反面少し都合が良すぎる場面もありますが、全体としては「ハートフルな物語」としてまとまっていると思います。
従兄弟が起こした事件の真相を探るミステリーのようなパートもありますがそこまで深い内容ではありません。物語を面白くするために付随している、くらいの認識でOKです。
 
薬丸さんにしては珍しい作風なので、気になる方はチェックしてみてください。