花の本棚

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市川憂人 揺籠のアディポクル

市川憂人 「揺籠のアディポクル」
本屋さんに行ったら市川さんの新刊が置いてあったので買ってみました。

 

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主人公の少年は免疫力が弱いため無菌病棟で少女と二人で生活していた。ある日嵐によって病棟が破壊され、医療スタッフたちも近寄れなくなり二人は施設に閉じ込められてしまう。しかし数日して人どころか外界の医療器具すらないはずの無菌病棟で少女がメスで刺殺されているのを発見し、犯人を突き止めようとするというお話。
 
こちらはミステリー小説となります。
ミステリーがメインとなりますがそれだけではなく登場人物たちの心理描写も見所があります。大人になれずに死んでいくかもしれない子供たちの心情が上手く描かれており、読みながら色々と考えてしまいました。
ミステリー面に関しては非常に上手く出来ています。登場人物が少ないので犯人当ては難しくないと思いますが真相を推理で当てるのはかなり難しかったです。推理するのが好きな方は真相当てに挑戦しても楽しめる作品です。
本作の重要な要素として記憶に関する話が出てきます。ミステリーの題材として使われているだけでなく、トラウマなど記憶に関する知見も多く出てくるのでためになりました。
 
作中にて人の記憶に関する説明をしているシーンがありました。それによるとトラウマとは脳の不具合によって消したくても消せなくなった嫌な思い出とのことです。トラウマという言葉を人から聞くたびに「言う割に対してダメージ受けてなさそうで大げさに言って笑いを取ろうとしているだけ」といつも思っていたのですが、本当の意味を聞いて納得しました。消せないからことちょっとしたことで嫌な思い出が蘇るということですね。
私はトラウマに該当しそうな記憶は持っていないのですが、敢えて忘れないようにしている嫌な思い出はいくつかあります。どれも他人から攻撃されたときの記憶なのですが、そうしているのは自分が同じ状態になっているか常に確認するために忘れないようにしています。彼らは私にとってこの世にいない方が良いと位置づけた物体たちであり、もし自分が同等の行為をするようになったら即刻自害するつもりでいます。汚れた物体になって生きるくらいなら死を選ぶのが私の本懐なので、もし私が鬼畜になっていたら遠慮なく教えていただきたいです。
 
最近の市川さんの作品は推理以外の要素も入れているようでまた違った作風になっていて面白いです。