花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

垣谷美雨 希望病棟

垣谷美雨 「希望病棟」
前作にあたる「後悔病棟」が良かったのでその続編を読んでみました。

f:id:flower_bookmark:20210722135738j:plain

 
患者の気持ちが汲み取れないことで評判が悪い女医があてると患者の心の声が聞こえる聴診器を拾う。一人の患者は施設育ちでとにかくお金がなく実は大人を嫌っており、もう一人は議員の妻になったことを後悔していることが分かった。両者は最新の治験によって奇跡的に回復したため、今まで我慢してきて出来なかったことをし始める、というお話。
 
女性の貧困をテーマとしたドキュメンタリー系の作品です。
女性の貧困の部分についてかなり現実的な描写をしています。女性の雇用も以前より拡大してきていますが、進学もままならない極貧状態の女性が稼ぐには性的サービスに勤めるしか道はない、という現実が描かれています。かなり後ろ暗い面であり表面化させづらいところだと思うので読んでいてためになりました。内容の比率から見ると本作のメインはこちらのようです。
前作は聴診器をあてると過去をやり直した場面を体験できる、というものでしたが今作は心の声だけでその部分がなくなっています。そういう意味では前作との繋がりは薄いので続編として捉えなくても良さそうでした。
気になったのは終盤の進み方が駆け足になっている点。中盤までと比べると描写がかなり間引きされていて、急いで話をまとめているような印象となってしまいました。途中まで良かっただけに少々残念でした。
 
本作では性的サービスでお金を稼ぐことについての描写が多い。「女性は最悪体で稼げるから男性より楽」という主張を作品の中で見ることが時々あります(現実で言っている人は見たことない)。
なぜそういう構図になりやすいのかと考えてみたのですが、性的欲求を満たすのにお金を払うのは男性だけだからという考えになりました。女性側にもそれがあるのだとしたら、男性がサービスする店が目に見えて乱立するはずです。これまでにそのビジネスが出ていないことを考えると女性は性的欲求にお金を落とさないと考えていいでしょう。なので「男性には絶対できない楽なお金の稼ぎ方が出来てズルい」というのが上記主張の本音なのだと思います。
では極貧の男性が行き着く稼ぎ方って何だろう?と考えてみると、おそらく暴力団だと思います。暴力団の役職になれば大金も夢ではなく、暴力団の構成員はほぼ男性なので男性しかできない稼ぎ方に該当します。ということは女性でいう「体で稼ぐ」は男性でいう「暴力団に入る」に該当するのかな?という考えになりました。こうして考えるとどちらも全然楽ではなさそうですね。
 
続編でありながら毛色が違っている作品ではありますが、良い作品でしたのでおススメです