花の本棚

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一本木透 あなたに心はありますか?

一本木透 「あなたに心はありますか?」
一本木さんの新刊が出ていたので買ってみました。デビュー作の「だから殺せなかった」から4年ぶりの新刊とのこと。
 


主人公はAIの研究をしている教授で人の心をAIで作り出すことを目標に研究していた。あるシンポジウムで講演した後の議論にて彼がAIの軍事利用に反対する意思表明をしたところ、それに賛同して意見を述べようとした教授が話の途中で倒れてそのまま死亡する。その知らせを聞いた後に彼は軍事利用に反対したから殺害され、同じく反対を指示した主人公含む他の教授たちも殺害する、という脅迫メールが届く、というお話。
 
AIと人の心をテーマにした近未来ミステリー作品になります。
AIを搭載したマシンやサービスなどは最近話題性が高く、いつか漫画アニメに出てくる人間のようなロボットが出てくるのではと期待されています。本作では特にAIで人の心を作るという点にフォーカスして描かれています。AIの軍事利用については現実でも問題視されているテーマで賛成派と反対派の意見について詳しく書かれており、一本木さんが元新聞記者なこともあってこのあたり書き方が上手くて読んでいて面白い見所の一つになります。他にも何をもってAIが人間の心を持ったと確証するのか?そもそも人の心とは何か?という学術系の話もありつつ、人の心についても描かれているのも本作の見所となっています。
ミステリー部分については終盤に面白い展開がありました。推理して考える必要はありませんので話を楽しむ方に注力してしまって問題ないと思います。
 
作中にてAIで人の心を実現したとして、それが人の心であるとどうやって証明するのか?という問いかけが何度も出てきました。研究である以上は何かしらの根拠が必要になるので、これは必須の課題となるでしょう。作中では一つの回答としてある方法(ネタばれになるので書けませんが)が取られていたのですが、それを含めて考えてみるとあまりに非人道的な方法で確認することになりそうです。
なぜそう思うかと言うと、「人の心か確認する」を実施するとしたら人間関係でいうところの試し行為をしなくてはならないからです。我々の実生活でも口ではこう言うけど本心を察してほしい、とか嫌っているような行動をするけど本心は違う、という試し行為に遭遇する場面はたくさんあります。人の心かを検証するとしたらこういったケースでどんな行動を取るのかを監視して採点することになります。つまりは人として最悪クラスの行動をAIにぶつけて試すことになり、自分がやられて嫌なことをAIにはやるという人間性を疑うような行いをしないといけません。人間である我々でさえ数回の試し行為で相手を嫌悪することから考えると、仮に「人の心を持つ」と認められたAI第一号が出てきたとしたらその第一号は無数の試し行為を受けた影響で人間のことをものすごく嫌っているAIになるんじゃないかな、と思ってしまいます。そうなるとSFによくある「人間に恨みを持ったロボットたちが人類抹殺をしにくる」という展開になるのもなんだか納得できますね。
 
AIは今もトレンドなテーマなので気になる方はチェックしてみてください。