花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

小林由香 救いの森

小林由香 「救いの森」

小林さんの新刊が出ていたので買ってきました。

 

 

主人公は児童救命士という仕事をしている。子供たちはライフバンドというリストバンドを付けており、それを使うと児童救命士がいつでも駆けつけてくれる世界。呼び出してくる理由は様々であり、子供たちと向き合い救うことの難しさを痛感する日々であった。相棒である先輩は当初頼りなく見えたが、迷ったときには導き見守ってくれていた。子供たちの抱える心の痛みを描いたお話です。

 

ミステリー風に社会問題を扱った作品です。子供の救いがテーマになっています。

短編集になっており、各章で悩みを抱える子供たちを救っていくというお話です。

子供たちが何に悩み、苦しんでいるかをとてもリアルに描いています。また同時に主人公の心情を描くことで人を救うことがいかに難しいかを描いています。小林さんの作品は心理描写を描くのが非常に上手く、感動的です。

あくまでミステリー風なので驚くような結末、などといったものが用意されているわけではありません。言うなれば登場する子供の真の悩みが何なのか、という点がミステリーテイストになっています。私も読みながら探っていましたが、一度も見抜けませんでした。それくらい子供たちの心の中は簡単に読めるものではないということでしょうか。

この本は子育てをしている親御さんにぜひ読んでもらいたい。子供たちが何に傷つき、苦しんでいるかを理解する手助けになってくれると思います。

 

本書では読んでいて考えたことがいくつかありますが、長くなるのでいくつかピックアップして紹介します。

・・・というのがいつもの流れですが、力試しに全部書いてみます。普段は重要でない内容を書かなかったりするのですが、今回は文章の推敲のみにして内容は一切削りません。

この先はとても長くなりますがご了承ください。全部で1300文字くらいあります。長いので英語版もなしでいきます。

 

本書では子供の意志を尊重するために「子供は親を捨てる権利を持っている」という設定です。

もう少し詳細を書くと、生みの親を放棄して保護施設に入ることを子供の意志で決められるという内容です。

子どもを守るという目線で見ると、これは良い権利だと思います。子供を虐待死させて両親が逮捕される事件をテレビで最近見ました。今の制度ですと、法的に親と離縁する方法は死別以外にありませんのでこの制度があれば救えた命があったというのは間違いないでしょう。

ただ、想像してみると良いことばかりではなさそうです。

まず出生率が低下するでしょう。この制度を親の目線で考えると、子供を産むことのリスクが増加するからです。例えばの話、今まで良き親として会社にいた同僚がある日子供に捨てられたら、その社員の印象が崩壊しますよね。職業によってはこれによって信頼が失墜して地位を失うかもしれません。これらのリスクを背負ってまで子供産むのか?という話になったら、今よりもさらに少子化が進むことでしょう。これだけならいいですが、そこから逆恨みが発生して捨てられた親が子供に復讐にし行く、という流れになりそうな気がします。

つなげて子供側から見てみると、制度利用を躊躇うケースが増えそう。本書の中で「子供は大人が思う以上に親に対して気を使っている」という記述がありました。それが本当だとしたら「わたしが捨てたら親たちは職を失う」と察知して心を閉ざしてしまいそう。もっとひどいと、親や業界人から「親を捨てたらタダじゃおかない」という脅しをかけて封じたりするかもしれませんね。

 

印象に残った文章を2つ紹介しましょう。

主人公の先輩からの言葉で「子供は強い人ではなく、痛みを理解してくれる人に心を開く」とありました。

これは子供に限らず、すべての人に対しても同じでしょう。自分が悩みを抱えているとき、職場の優秀な同僚に相談すれば解決するか?と言われれば多くの人は必ずしもそうじゃないと言うでしょう。私の経験上ですが、自身が経験したこと以外理解が及ばない、という人はかなり多いです。これらの人々には共感力がない、言い換えると「この人の立場で想像してみよう」ができない(しようとしない)のです。私自身が出来ているのか?と聞かれるとよく分からないです、答えは相手の心の中にあるので自己採点は不可能ですから。私が気を付けていることと言えば、相手が話し終わるまで口を挟まないくらいです。話の途中で結末を見抜いて言い当てようとするカッコいい人もいますが、私はそういう芸当は出来ないので時間かかってでも最後まで聞くしかありません。

 

次にある章に出てくる言葉で「法を恐れなくなった人間ほど怖いものはない」という言葉がありました。

主人公が言うに尊厳を踏みにじられ続けた人間の行きつく先とのことですが、私は主人公のこの解釈は正しいと確信しています。踏みにじられた側からすれば、人間扱いしてないなら人間の法律は守らなくていいと考え始めるのはごく自然なことです。普段人間として扱っていないのに身の危険が迫った時だけいきなり人間として接し始めるのは、どう考えても変ですよね。そこを徹底して危険動物を殺すように殺処分したら一貫性があってカッコいいのですが、そこまで気骨のある人にはまだ出会ったことがないです。

 

長くなりましたが、この作品を読んで考えたことは以上となります。

ここまでお付き合いしてくれた方々、ありがとうございました。