花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

桃野雑派 星くずの殺人

桃野雑派 「星くずの殺人」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。

 



 
民間企業による宇宙旅行のモニターツアーが実施されることとなった。宇宙に設立されたホテルに到着したのだが、宇宙船の機長が無重力下で首を吊って死んでいるのが発見される。無重力の場所でわざわざ首吊りをするとは思えないが、他殺だとしたらツアー客の中に殺人犯がいることになるためすぐに地球に帰還するか悩みはじめる。ツアー客に事態を説明すると、それぞれが強い目的を持っていることと高額な参加費のこともあってツアーを続行することとなる。しかしその後耐えかねたホテルスタッフが脱出ポッドで逃亡してしまい、さらにはツアー客の一人が何者かに襲撃されてしまう、というお話。
 
SF系のミステリー作品となります。
状況が特殊な設定になっているので、本書ではなぜこの場所で犯行に及んだのかを中心として話が進んでいきます。上記の首吊りに見せかけた殺害などは地球上でやった方が簡単なのになぜ宇宙で?という点を考えながら読むと楽しめます。一方でどうやって殺害したのか?の方はSF系ということもあって推理するのが難しいのでやらなくて良いと思います。
もし宇宙旅行が身近になったらどんな感じになるのかが描かれているため、想像しながら読むと面白いです。長期間の病気検査、行くときは人が耐えられるギリギリのGに耐えないといけない、などお金だけ払えばいいというわけではないところが妙にリアルでした。
高額ながらも民間企業による宇宙旅行が実現できるようになったばかり、という設定もあってか参加者が何を目的に参加しているのかを話す場面は面白くて個人的には見所でした。わざわざ宇宙に来るほどなので目的は壮大なものが多いのですが、何かズレてる部分もちらほらあって物語を面白くしてくれています。
 
本作では民間企業で宇宙旅行ができる、という話になっている一方で宇宙に来るための検査や訓練はしなければいけないという設定で描かれていました。SF系の話では忘れがちですが宇宙自体も危険がいっぱいですが、そもそも行くだけでも達成しないといけない基準が多くあります。
読んでいて考えてみたのですが、仮に本作のように地球外に娯楽が作られるようになったら「身体の丈夫さ」を持っている人の価値が急激に上がりそうです。例えば作中の描写とで、宇宙ホテルに行くまでの宇宙船の中では人間が耐えられるギリギリのGがかかるようになっていました。となると宇宙ホテルのスタッフはまずこのGに耐えられる身体を持っているのが必須条件となります。また地球外に娯楽施設があったとしてもそこに行くのに耐えられないと遊びに行くこともままならないということです。つまり身体の丈夫さを持っている人だけが楽しめる娯楽という位置づけになります。近頃はダイバーシティの普及により健康体だと不利益を被るので病気を持っていた方がいいと思える事態も度々目にしますが、健康体の人しか宇宙に行けませんとなったら健康体で良かったと思える機会が増えそうですね。
 
SF系ながらもリアルな部分も多くあって面白いので気になる方は読んでみてください。