花の本棚

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小西マサテル 名探偵のままでいて

小西マサテル 「名探偵のままでいて」
2023年の「このミステリーがすごい!」の大賞に選ばれた作品ということで買ってみました。

 



 
主人公の女性の祖父は認知症によって幻視や記憶障害の症状が見られるようになっていた。それでも調子が良い時は切れ者であったかつての頃に戻り孫娘に古典ミステリー談議を聞かせてくれたりもする。
そんなミステリー好きな彼女に対して友人たちは奇妙な出来事が起きると彼女に相談するようになっていた。彼女は聞いた出来事を祖父に伝えると、彼はまるで幻視でその出来事を見たかのように真相を導き出す、というお話
 
安楽椅子探偵系のミステリー短編集となります。
認知症による幻視で出来事を見ているのかも、という設定を入れたことで安楽椅子探偵のご都合感を無くした点が良く出来ているという印象です。ミステリーとしてみると短編でありながらもそれぞれの謎が上手く出来ていて面白いです。
また祖父との穏やかな会話シーンが多くあることやどの章も結末が明るめに作られていることから作品全体の雰囲気が素敵に仕上がっているのも本作のいい点だと思います。個人的には祖父が主人公に対しての真相の仮説を訪ねる時に「物語を聞かせて」という言い方をするところが優しげで素敵だなと思いました。
それと主人公たちが古典ミステリー好きという設定なので各章の謎と似ている古いミステリー作品について話すシーンがたくさんあります。私は古典ミステリー詳しくないのでそんな作品があるのだな、という発見がいろいろあってためになりました。
 
本作では古典ミステリーの話が多く出てくる中で、登場人物のひとりが古典ミステリーはつまらないと断じる場面がありました。好きな人には失礼ですが私も古典ミステリーはつまらないと思っています。なのでその登場人物が語っていたつまらない理由には共感しました。
私が古典ミステリーで一番楽しめないのは探偵役がもったいぶるところです。「今はまだ言うべきではない」といって後に回して実は一目見た時から犯人に気づいていました、という展開は探偵の優秀さを際立たせるためにありがちなのですが嫌いです。考えてみたのですが、おそらく私はどの時点でその伏線があった?と前のページに戻っていく工程が嫌いなのだと思います。すごく重要な数点だけならいいのですが、何個もそれをされると戻らずにそのまま読み流してしまっています。
これは素人考えですが、昔と今の読書は楽しみ方が違うのかなと考えています。昔は同じ作品を何度も読み返すスタイルが主流だったのでしょうけど、今は読み切って次へ行く人が増えているのだと思います。私の読書スタイルは完全に後者の方なので、古典ミステリーにはまだまだ踏み出せなさそうです。もういっそのこと今読んでいる作品たちが古典と呼ばれるまで待つとか…?(笑)
 
雰囲気も良くて内容も軽めなので、気になる方は気軽に手に取ってみてください。