花の本棚

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薬丸岳 告解

薬丸岳 「告解」
薬丸さんの新刊が出ていたので買ってみました。
 

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恋人に呼び出されて飲酒運転した大学生が老女をひき逃げしてしまった。裁判の末実刑を受けて出所するがかつての友人たちの拒絶や家族の陥った不幸を聞くことで自身のしたことの罪深さを目の当たりにする。一方で妻がひき逃げにあったのは自分の看病のために出歩いたからと知った夫は加害者に対して強い思いがあった。認知症が悪化する中で出所した彼に接触して思いを果たそうとする、というお話。
 
こちらは贖罪をテーマにした作品です。
罪を犯した人が自分のしてしまったことと向き合えるようになるまでをリアルに描いています。普通に考えればどうしようもない鬼畜な加害者としてしか扱えない境遇の主人公をほんの欠片だけ救いがあるように見せて描いてくれています。ここまで極端な罪深さとは言わずとも、罪悪感を抱えてなかなか抜け出せないという経験がある方は何か感じるものがあると思います。
ただ今作の最後は少々現実離れな展開で強引な印象でした。薬丸さんの他作品にも感じられる「自分のしたことから逃げずに向き合ってください」というメッセージは今作にもちゃんとあるのでそこは良かったです。
 
刑罰を全うし苦しい思いをしても贖罪にならないのか、と加害者が悩むシーンが多くあります。
私は刑罰は贖罪にはまったくならないと考えています。刑罰は国の法をもとに決まることからその国で活動するのを許してもらうためのものであり、そこにいる人々に許してもらうためのものではないからです。合法なのに周囲からバッシングされるのは納得いかない、という主張をときどき見ますがこう考えてみれば何もおかしくないことが分かります。どうしても納得できないのであればそれを許す国民性の国に移住すればいいだけの話です。
もし刑罰と人々の許しを一致させるとしたら刑罰を決めるときに被害関係者の意向を取り入れなければ不可能でしょう。そうなった場合おそらく大半の犯罪者は死刑になると予想されるので、少なくとも日本では犯罪者が生きたまま許してもらえることはありません。逆に考えると日本は死者を悪く言わない風習があるので死にさせすれば許される可能性が一気に上がります。土下座は誠意にならないと一時期話題になりましたが、そんなことしてないで切腹した方が時間の無駄にならないということです。私も同意見ですけどね。
 
重いテーマでも希望が持てる終わり方になっているのがいいところかなと思います。