花の本棚

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一本木透 だから殺せなかった

一本木透 「だから殺せなかった」
諸事情があって間が空いてしまいました。コミュニティで紹介されていた作品です。
 

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主人公の新聞記者は過去に恋人の父親の不正を暴いてしまったことで未来の家族を失ったと後悔していた。新聞の企画でそのことを書いたとき、「ワクチン」と名乗る連続殺人犯から名指しで紙面上での議論をするよう挑まれる。
一方で両親が本当の親でないことを知った男性は父親と和解して暮らしていた。ある日、「ワクチン」が配った無差別な殺害予告状が父の元に来ていることを知り、紙面で議論している記者に助けを求める、というお話。
 
鮎川哲也賞で優秀賞となったミステリー作品です。
この賞は中長編ミステリの新人賞といったものなので受賞する作家さんは知名度が高くないことがほとんどです。
この作品は「家族」をテーマにしたミステリー小説となります。家族になるはずだった人を失った新聞記者と育ての両親と血が繋がっていない男性を出すことで上手く描かれています。ミステリーよりもこっちがメインかもしれない、と思えるほどです。
ミステリーとしてみると登場人物が多くないので犯人はすぐ分かると思いますが、動機の方を見破るのは難しいという印象でした。
ミステリーとして推理を頑張るもよし、読み物として楽しむこともできるという作品です。
 
作中にて「自身に降りかかったらと考えても分からないが、大切な人に降りかかったらと考えることで命の重さが分かる」という言葉がありました。
これは私自身も経験があるので正しいと思います。自分の場合で考えると、他人から心無い言葉を多く浴びてきたので今だと言葉によって傷つくことがほとんどない。一方で家族などがそういった目にあっているのを聞くとヒドいこと言われてる、とちゃんと認識することが出来ます。こうしてみると、一人で生きていると気づけないことは案外多いので何かしらの形で親しい人はいるのは重要なことだと思います。
 
これに関連して一つ普段から思っていることを書きましょう。
「自分がされて嫌なことを人にしない」という教えがありますね。これを「自分がされて嬉しいことは人にしてもいい」と解釈する方を結構見ますが、それは違うといつも思っています。私が思うにそれはどうしても判断がつかない時の最後の手段であって、相手が何を望んているかを探る前に使う考え方ではない。
会社だと「君のために〇〇をしてやってる」という言い分を聞きますが、〇〇の重要性を説明したり、相手が〇〇を本当に望んでいるのかを確認せずに行動していたらその人は自己満足のためにしていると言い切れます。
私はとても身勝手なので他人のことを思って行動することはほとんどありません。その代わりに問題が起きても他人を言い訳にせずに自分がやりたいからやりましたと正直に言います。
 
新人の作家さんでこの質はこれから大いに期待できそうです、楽しみにしています。