花の本棚

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中江有里 残り物には、過去がある

中江有里 「残り物には、過去がある」
あらすじを読んで面白そうだったので読んでみました。

 

 
会社社長の男性と契約社員の女性の披露宴が行われていた。歳の差もあり地位も大きく違うことから周囲からは「玉の輿」「お金目当て」という陰口も少なくなかった。実は参列者に「レンタル友達」で雇われた女性がいて友人代表としてスピーチすることにもなっており、新郎新婦の間には何か秘密があるようであった。彼女以外にも新郎の友人や新婦の従姉など結婚にまつわる秘密を持つ人々が披露宴に参加して思いを馳せる、というお話。
 
結婚をテーマにした短編集です。
結婚になかなか踏み出せない理由、今は結婚しているがそこまでに色々なことがあったなど主に未婚の時期の出来事にフォーカスを当てた短編となって収録されています。本作の見所は心理描写の上手さにありまして、結婚に対して前向きになれない心理が繊細に描かれています。未婚率増加による少子化も近頃社会問題として取り上げられていますが、本作の描写を読むと結婚しない理由も多様化しているという点も背景にあるのだろうと読み取れました。
 
作中にて同世代で一番結婚が遅かった新郎が若い新婦を得たことに対して残り物には福がある、という表現をしていました。色んな物事で最後に残ったものに対しての言葉ですが、婚期が遅れた人に使うのはどうなのだろう?と思い面白そうなので真面目に考えてみました。
結論から言うと福がある可能性は意外にありそうだと思いました。まず残り物は厳しい言い方をすると一般的に人気がある特徴を持っていません。だから残っているという前提で考えると、その残り物にまで目を向けるような人は一般的に人気な人物たちではしっくり来なかった人たちとなります。人気の人たちで要求が満たされるなら残り物まで目を通す必要性がないのでそうなるでしょう。こういった流れが起きると残っている物の方に自分が求めている人物がいた、となり「残り物に福がある」と呼べるのではないかと思い至りました。
少々こじつけ感もありますが「人による」と濁すよりは良い着地点になったかなと思っています。
 
初めて読む作家さんでしたが、とても楽しめたので他の作品も見てみようと思います。