花の本棚

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垣谷美雨 定年オヤジ改造計画

垣谷美雨 「定年オヤジ改造計画」
垣谷さんの作品で面白そうなのがあったので読んでみました。

 

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主人公は定年退職した男性。定年後の生活を楽しみにしたが妻には自分のせいで精神病になったと責められ、娘には常識がないと見下され誰からも相手にされない生活になってしまった。あるとき息子から孫の保育園のお迎えを頼まれ男には無理だと主張するも家族全員から非難されたのでやむを得ず引き受ける。今まで家事をしたことがなかったために苦戦するが、それを期に妻がいかに苦労し、自分を恨んでいるかを自覚し始める、というお話。
 
家庭内の価値観の変化をテーマにした作品です。定年した男性を事例にして家庭内の価値観の変化についての現代の問題を書いています。読んでみた感触では定年男性の描写はあくまで掴みでメインはこちらだと思います。
子育てや結婚、専業主婦といった家庭内に関する事柄に対する現代の価値観は昔と比較してどう変わったのか、をかなり現実的に書いています。将来家族から疎まれないようにするためには時代の進みに合わせた理解を深めたりや価値観の刷新が必要、と作中全体を通して主張していると読み取れました。結婚されている方が読めば共感する点や似た悩みに頷く方が多いのではないでしょうか。
作中のように価値観が素早く変わる人は現実にはいないだろう、という点については垣谷さんの他作品のようにSF風社会問題の作品として見るのが良いと思います。
 
本作では色々と面白いことが書いてあったため、私も色んなことを考えました。全部は書けないのでいくつか紹介します。
本作では価値観の刷新が出来ないと若い世代から疎まれる点が強調されていました。私が思うに、価値観の刷新で重要なのはどの世代と一緒に生きたいかを決めることです。作中のおじいちゃんの場合は妻と息子夫婦と孫と生きていきたいと考えていたからその世代と女性の価値観を理解しないと疎まれるということです。
例えば選挙に当選したい政治家だったら票数の多い高齢者の価値観で行動した方が当選率高いでしょうし、極端な話だと一切誰とも接することなく一人で生きていくのであれば価値観を刷新せず自分がすべて正しいという価値観で問題ありません。すべての人の価値観を理解し取り入れるのは不可能なので、自分にとって重要な人が属するカテゴリの価値観を重点的に理解していくのが良いと思います。少々穿った見方になりますが、本作の結末で高齢者の価値観が古い理由を国策のせいにして終えているのは、読書する年齢層は中高齢者が多いためのバッシング対策だと私は思っています。
 
価値観の刷新に付いて最近思うことがありまして、軽視されがちな価値観に「笑いの価値観」があると思っています。
少し前に森元首相女性差別発言で問題になりました。彼は女性差別をしたかったのではなく、ウケ狙いをしようとしてあの発言をしたと私は考えています。おそらくあの発言をしてウケたシーンがかつてあり、同じように使ってみたら非難を浴びたということです。 失言して責められたときにジョークなどの笑いに逃げてその場を誤魔化そうとする人は多数見たことがあります。このときに笑いの価値観が刷新されていないとウケ狙いのつもりが火に油を注ぐ結果になりかねません。こういった点から笑いの価値観には気をつけるべきだと私は思っています。
 
本作の序盤にて主人公が自身の価値観の持論を展開して周囲を呆れさせるシーンがありました。
突っ込みどころがあり過ぎて呆れてしまったのですが、私が最悪だと感じた点は自信満々なのに語尾が「なはず」「だろう」ばかりだったことです。つまり伝聞や推測の情報を確かめず、自分に都合の良いものだけ吸収して持論化しているということです。上記は仮に意見を否定されても情報源に責任転嫁出来ることからプライドは高い人けど思考はしない人がよくやります。作中では妻がそれに反論しないのはそこを見透かされて諦観しているからだと解説されていましたが、まさにその通りだと思います。物語の都合で主人公は考えを迅速に改めていますが、現実だったら死なないと直らないでしょう。
 
社会問題系の作品でしたので、そういった内容に興味がある方におススメです。