花の本棚

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遠田潤子 あの日のあなた

遠田潤子 「あの日のあなた」
遠田さんの作品であらすじを読んでみて面白そうだったものを読んでみました。

 

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主人公の大学生は交通事故で唯一の肉親である父を亡くした。父からの遺言状にはあらゆる弔い事を禁じると書かれていることに驚き、書斎の遺品整理をしていると母子手帳が見つかる。そこには自分と母とは違う女性の名前が書かれており、自分の名は別の女性が死産した子のものと気付く。自分が死産した子の代役であることにショックを受け、誰から見ても理想的であった父に不信感を持ち始める。母子手帳の持ち主である女性のことを調べ、父が何を隠していたかを探るというお話。
 
家庭環境をテーマにした作品です。
主人公が絵に描いたような恵まれた家庭で育ったために周囲からは羨ましがられるが、当人には苦痛になっているという描写が多く書かれています。私自身も恵まれた環境で育った自覚があるため主人公の心情には共感するものがありました。またその対比として主人公の友人や前妻は崩壊した家庭で育ったとして書かれています。家庭環境は考え方や価値観に対して非常に重要と言われていますがこうも違ってくるのだなと改めて思いました。
自分の出生や前妻に関することなどミステリーとしても楽しめるようになっています。最後まで読むと細かい部分までちゃんとつながるので書き方が上手いです。
 
家庭環境について以前から一つ気になっていることがあります。それは恵まれた環境で育った人を蔑むことはあっても、崩壊した家庭の人に対しては蔑みがないのはなぜかという点です。例えば、私が良く言われる「一度も苦労したことがなさそうな顔」がありますがその対比である「ろくでもない家庭で育った顔をしている」が言われている場面を見たことがありません。同じ家庭環境ネタなのに片側だけが言われるのはなぜだろう?と常々疑問に思っていました。
考えてみた結果出てきたのは、恵まれた環境で育った人は強い感情を出さないから揉め事になりづらい、という仮説です。他人と衝突する原因の一つに「自分を分かってもらいたい」「嫌わないでほしい」といった感情があります。普通であれば怒ったり悲しんだりして相手の考えを少しでも正そうとするのでしょうが、私はそもそも他人に期待していないので他人に自分を分かってもらおうという姿勢がありません。この「分かってもらおうしない」がお高く留まって周囲を見下しているように見える、と考えるとあり得そうな説だと思います。本書の主人公と私でサンプル2つしかなくて心許ないですが…。
その反対である家庭がちゃんとしていない人は強い感情を出し揉め事が起きやすいのか?については自分の家庭しか分からないので確認は取れていません。
 
作品自体も面白く、ためになる事が多く書かれていたのでおススメです。