花の本棚

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長江俊和 出版禁止

長江俊和 「出版禁止」
出版禁止シリーズの最初の作品を読んでみました。

 

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あるライターの書いた原稿。その内容はドキュメンタリー作家とその愛人が心中し、愛人だけが生き残った事件について本人にインタビューしたというものであった。不倫の末の愛による心中と当時は見なされたが、取材を進めるうちに作家の方には恨まれる理由があること、彼女が作家に近づいた経緯を話したがらないなど不審な点が多くあり彼女が殺害を請け負ったのではとライターは疑い始める、というお話。
 
出版禁止シリーズの第一作目で心中をテーマにしたミステリー作品となります。
こちらは2作目の「いやしの村滞在記」に近くてミステリーとして面白い部分が多い。心中事件の真相はどうなっているのか、真相を知ってライターはどうしたのかが巧妙に隠されています。こちらも最後まで読んだ後に再読することで伏線が見えるようになるので時間があるようでしたら再読までしてみると良いです。
本作では心中についても多くの解説や描写があります。心中は負の愛情表現の最高位にあるため、劇の題材になるほど昔から多くの人を惹き付けてきたという解説などミステリーとは別の点でも読んでいて面白い部分がありました。
 
本作は心中についての解説や描写が多くあったのですが、その中で心中は負の愛情表現の最高位とする描写がありました。「負の愛情表現」という言い方を私も本作で初めて目にしました。端的に言うとパートナーとの愛を苦しいことを我慢して実施してくれるかで確かめることを指します。そう考えると愛のために死を選ぶのは負の愛情表現の最高位に間違いなくなるでしょう。
負の愛情表現には他にどんな行為があるか考えてみると「真夜中に電話しても対応してくれる」「お金を貢いでくれる」「不倫と分かっていても一緒にいてくれる」といった行動が分類されるでしょう。並べてみて気付きましたが、負の愛情表現は我慢を伴うためか語尾に「くれる」が付きやすいようです。もしかしたら現在トレンドである「ありのままの自分を受け入れてくれる」も負の愛情表現に入るかもしれません。以前別の作品で「不幸や堕落のオーラに惹かれる人は一定数いる」という話があったのですが、それは負の愛情表現に惹かれる人たちなのだろうと思い至りました。
負と正どちらの愛情表現を求めるかは価値観の問題なので善し悪しで語るつもりはありません。ですがそれは家庭環境で決まるので他人が働きかけて直したり出来るものでないのは間違いないでしょう。
 
これで出版禁止シリーズ三作を読み終えました。
ミステリーとして大変良い作品ですのでおススメです。