花の本棚

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城山真一 看守の流儀

城山真一 「看守の流儀」
あらすじを見て題材が珍しかったので読んでみました。

 

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主人公たちは刑務所に勤める刑務官。行動が制限されている刑務所では受刑者同士や看守との人間関係が更生度合いに影響すると言っても良い環境であった。受刑者のケアをどうしていくべきなのかを悩みつつ日々の勤務をしている中で、まるで魔法を使うかのように受刑者たちの懐に入り込み問題を解決する刑務官がいた。
受刑者を巡った騒動が発生し解決していく、というお話
 
刑務所を題材にしたミステリー短編集です。
犯罪をしたという理由から命を軽く扱われやすい受刑者たちを更生させて生活に戻すためにはどうすればいいか、を常に悩む刑務官の姿は読んでいて惹き付けられるものがありました。受刑者やその関係者が入所のきっかけになった事件をどう思っているか描いた心理描写も非常に上手くて読んでいて面白い部分でした。
またミステリーとしての方も質が高く出来ています。行動制限の厳しい刑務所でミステリーになるネタがあるのだろうかと気になって読み始めたのですが、受刑者とその関係者の心理状態や伏線の回収の仕方といった部分がかなり上手いです。最後の章では全章通して登場する刑務官の正体が明らかになるという展開もあるので最後まで楽しく読めました。
刑務所の内部事情についても色々と描かれています。刑務官が刑務所内でどういったことをしているか、所内の制度がどうなっているのかなど知らなかったことが多くあったのでためになりました。
 
本作では受刑者のケアが行き届いていない現状を問題視する描写が多くありました。命を軽く扱われやすい、刑務所内で死亡したときに引き取りを拒否されて骨を廃棄処分しているなど扱いが酷い描写を読みました。
読んだ上で考えてみたのですが、どの問題を読んでもだったら犯罪しなければいいだけなのではという考えに行き着いてしまいました。なぜそうなってしまうのか考えてみると、私の人生の中に犯罪行為や犯罪者と接点がなかったからだろうと推測されます。陰湿なパワハラや集金したお金を掠め取るといったせこい悪事であれば見たことがありますが、刑務所行きになる行為をした人は私の知り合いにはまだいません。つまり犯罪をせずに生きている人が当たり前で犯罪者を更生してまで生かしておく必要性を感じない生活をしていることになります。これがもし友人の中に犯罪行為をしないと日々の生活が成り立たない人が何人もいるような生活をしていたら犯罪者に対する考え方が変わっていたのかもしれない、という考えに至りました。
それと私がよく言われる「一度も苦労したことがなさそうな顔」というのはもしかしたら「犯罪行為と無縁な顔」という意味だったのかなと思い至りました。そう考えると今までこれを言ってきた人々は裏で犯罪者と関わっている人たちだったのかもしれませんね。
 
一風変わったミステリー短編集なので題材が気になるという方はぜひ読んでみてください。