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小橋隆一郎 AIロボットドクター

小橋隆一郎 「AIロボットドクター」
あらすじを見て面白そうだったので読んでみました。

 

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舞台は2030年頃の日本、認知症の医療現場ではAIロボットによる回復プログラムが行われていた。AIプログラムの学習能力の発展は目覚ましく、いつか人類を超えて支配する側になるのではと危惧されていた。実運用においては患者側がAIロボットを道具と認識しているために気に入らない指示を聞かないなど課題が多くあった。そんな中で重症患者がAIロボットによる診察を受けた後に死亡するケースが多発するというお話。
 
AIロボットによる医療体制を描いたSF風の作品となります。
もしAIロボットを認知症医療の現場に導入した場合にどういったことが起きるかを描いています。著者は医学博士の方ということもあり導入したときに起こる問題の描写がとてもリアルに描かれていました。読んでみるとAIプログラムが人間に合うかどうかよりも人間が自分より優れているはずのAIプログラムを受け入れらない点の方が問題点が多いように読み取れました。
上記以外にももしAIロボットと共存するとしたら人間は何をすればいいのか?など近い将来にやってきそうな問題点を多く書いてくれていますのでとてもためになる内容でした。
医療関係の描写は上手いですが、反面小説としてのストーリー性は深くありません。このあたりは著者は作家ではないので仕方ないと割り切った方が良いでしょう。
 
作中ではAIロボットと人間の役割をどう分けるかが色々な面から書かれていました。私もAIについては勉強したことがあるので多少の知見があります。その上でまずAIに任せるべきじゃない事を2つ考えてみました。
1つ目は何かあったときに大きな責任を取らないといけない仕事です。これは現代でも責任問題については争点になっていたのを見たことがあります。管理責任者が責任を取ると決め打ちするのは良いのですが、問題は学習させた膨大なデータによるAIプログラムを人間が解析するのはほぼ不可能なのでどこを修復すれば良いかを正確に決められないことです。問題が起きるたびに1から学習し直しになるようではコストがかかりすぎるので、割安な代わりにAIロボットの仕事に対して責任を追及できないというルールで提供できる物事でないと導入は難しいと思っています。
2つ目は人間に対して共感が必要な仕事です。AIプログラムは解析能力が高いので人間の行動を理解するのは難しくないですが、共感は感情なので解析は不可能です。出来るとしたら統計を取って確率の高い感情を選ぶくらいでしょう。共感を欲する人は一度共感が得られないと分かると拒否されてしまうので、カウンセラーなど一発勝負で共感する必要がある職業は務まりません。
上記の点から、AIロボットが人間に取って変わる時代が来るのはすぐではないと思っています。
 
作中にて症状改善の見込みがない患者をAIロボットが死亡させているのではと疑うシーンがあります。
死を提供するデスロボットと作中では呼ばれていたのですが、私はデスロボットは特に日本ではあった方がいいと考えています。理由は日本人は気質として死と関わる仕事を拒否しがちだからです。人間の手でやりたくないことをロボットやツールで自動化するのが一般的な考え方です。例えば死刑の執行官といった業務をロボットが担えれば死による心的なストレスを無くすことができます。以前日本人の気質的に安楽死施設を作ってもそこで働くのは無理だろうと書いていたのですが、AIロボットがあれば作ることも可能になるでしょう。
 
AIだけでなく認知症についてもためになることが多く書かれているので医療系の作品が好きな方でしたら楽しめると思います。
本作には続編があるのでそのうち読んでみます。