花の本棚

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薬丸岳 ブレイクニュース

薬丸岳 「ブレイクニュース」
薬丸さんの新刊が出ていたので読んでみました。
 

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「ブレイクニュース」というユーチューブのチャンネルではマスコミがテレビなどでは流せないような情報やインタビューがほとんど加工されずに投稿されていて人気となっていた。創設者である女性は取材者の悲痛な状況、望みを伝えるために動画を投稿しており、ただ再生数やお金稼ぎだけのために過激な動画を作っているわけではないようであった。彼女がリスクを負ってまで動画配信をしている理由を探る、というお話。
 
最近挙がっている社会問題をテーマにした作品です。
8050問題、パパ活ネットリンチヘイトスピーチ、など近頃話題になることの多い事柄についてその当事者たちにインタビューする形式でその実態を描いています。これらの問題に苦しむ当事者たちは「本人たちの自業自得」と世間では言われてしまうことも多いのですが、そうでない面もあるという点にフォーカスが当たっていました。読んでみると描写がリアルで確かにこういう面は見てなかったなと改めて思うところが多くありました。
こういったタイムリーな題材の作品を読めるのが新刊を買う魅力の一つだと思っています。
ラストの結末については評価が分かれそうでした。盛り上がりに欠ける展開だったので尻すぼみ感を抱く方が少なくないと思われます。私としては「ネット上での盛り上がりは最終的にはこんなもの」という非常に現実的な終わり方だったので、そちらの路線で話を締めたかったのだと受け取りました。シビアながらも特定の人物が破滅して終わるような話にしないところも薬丸さんらしくて良いと思いました。
 
作中のエピソードの一つにSNSで不適切な行動をして炎上し娘が自殺に追い込まれた母親が「死ねと言われるほどの悪い行動なのか」とブレイクニュースに出演する話がありました。これに関して言われる側と言う側それぞれに考えたことがあります。
まず言われる側、その人にとっては死んで欲しいと思うほどの行動だったと非難を受け入れるしかないでしょう。これはいじめやパワハラの判定が受ける側の認識で決まるのと同じで、死んで欲しいと言われる可能性があることを不特定多数に見える形で出した方の責任です。自分が期待した反応以外が返ってきてショックを受けるのであれば身内にだけ見えるようにすればいいだけなので、多くの人から承認欲求を得ようとすれば同じだけの代償があるということです。
次に言う側、言ったその言葉が自身の感情をちゃんと表現しているかを確認するべきです。というのもネットリンチにあって自殺した事件の後に「やった、死んだぞ!」と大喜びしているのをほとんど見たことがありません。「イラっとした」とそのまま言うとインパクトがないから「死ね」と表現しているとしたら改めるべきだと思います。人に自分の意見や感情を上手く伝えるのは鍛錬しないと出来ない事なので、上記のような攻撃的な発言をしてしまう人はこの能力が足りていないのだと思います。私の基準として言った言葉そのままになっても後悔しない表現をするようにしています。上記の「死んで欲しい」をもし私が言うとしたら「相手の死を望んでおり、死んだら遺族の前でガッツポーズする」という感情になったら使います。
こうしてみると炎上騒ぎは言う側も言われる側も承認欲求のために過剰なことをしている似た者同士が集まって起きる、というまとめになりそうですね。
 
薬丸さんの作風が好きな方なら楽しく読めるのでおススメです。