花の本棚

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宇佐美まこと 夜の声を聴く

宇佐美まこと 「夜の声を聴く」
連休中にもう一冊読み終えることが出来ました。宇佐美さんの最新作を買ってみました。
 

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主人公の少年は公園で目の前にいた女性が自分の手首を切るところを目の当たりにする。それまで引きこもりだった少年は彼女に惹かれて同じ定時制の高校へ通うようになる。そこで出会ったクラスメイトがアルバイトをしている便利屋で手伝いを始める。奇妙な依頼が持ち込まれて調査すると別の事件とつながっていることが判明する、というお話。
 
こちらはミステリー小説となります。
内容は便利屋に持ち込まれる依頼ごとに分かれた短編集のようになっていて、終盤でそれらがつながって一つの大きなミステリーになっているというものです。それぞれの伏線の繋がり方は非常に上手くてミステリーとしての質が高いです。序盤の方ではどう話を進めていくのか想像できなかったのですが、読み終えてみるとちゃんと繋がった長編になっていて面白いです。
本作には主要人物のトラウマについて描かれている場面が多くあります。暗い過去を持っている登場人物が多く登場するとことからか各々の嫌な記憶と結びつく物事に直面する場面が描かれています。そういった境遇の方々がどう生きていくかというのも一つのテーマとして書いていらっしゃるのかなと感じました。
 
作中にて主人公はIQ130越えだったのに発達障害により協調性に欠けていたために学校で孤立したことを教育機関からのネグレクトと表現していました。
発達障害の子を適切に扱えないことをネグレクトと表現するのは驚きました。つまり著者は教育機関から虐待されていると言いたいと解釈できます。教師を嫌っている私から見てもこの物言いはさすがに教育機関が不憫だと思います。
まず発達障害だから孤立するわけではないということ。学校は団体行動を学ぶ場でもあるので、その和を乱す行動をする人が孤立するのは至極当然です。これは健常者であっても同じことなので障害とは関係ありません。よってそういった場に参加するための準備を怠った結果であって、教育機関のネグレクトと表現するのは適切ではない。進歩によって昔は分からなかった障害が多く発見され始めましたが、だからといって許されないことをしても見逃してもらえるわけではないことは子供のうちからでも教育するべきことだと思います。
もう一つはすべての教育機関にそれを期待するべきではないということ。はっきり言うと健常者の子でも適切に対応できていない今の状態で発達障害の子を対応するのはまず不可能です。対策を講じるとしても生徒の比率からして健常者への対策が優先されるのは明らかです。という点から健常者が多数を占める学校に発達障害の子を入れようとするのがそもそも間違いです。そういった対策が万全な私立学校や本書のように定時制に通わせるなどをした方が本人にとっても良い学校生活になると私は思っています。
 
久しぶりに宇佐美さんの本を読みましたが、やはり面白いです。