花の本棚

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垣谷美雨 後悔病棟

垣谷美雨 「後悔病棟」
垣谷さんの作品で気になる作品を見つけたので読んでみました。

 

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主人公の女医は患者の気持ちを汲み取れずに失言してしまうことを悩んでいた。あるとき拾った聴診器をあてると患者の心の声が聞こえ、余命が近い患者が悔いている過去を読み取れるようになる。さらに聴診器をあてていると患者は過去に戻って違う選択をしたときの人生を体験することも可能であった。不思議な聴診器を使って患者の後悔を取り除いていく、というお話。
 
SFドキュメンタリー系の作品です。
余命宣告された患者は自分の人生を悔いる、とよく言われていますがその悔いている場面で違う選択を取った先を見られるとしたら?を短編集として描いています。親に夢を諦めさせられてしまった子、娘の結婚に反対してしまった親、など現実世界でもよく聞く種類の「たられば」ですが登場人物たちの心理描写がとても上手いです。各章の結末を見た限り、過去の選択を悔いることに縛られなくて良いということが言いたいのだろうと読み取れました。
なお舞台は病棟ですが医療系の話は出てきませんのでご注意ください。
 
人生の選択をやり直せるとしたら、が題材なので選択を間違えたと悔いている場面が多く書かれています。自分の人生を振り返ってみると、致命的に選択を間違えた場面はないように思えました。
以前別の作品でも触れましたが、どこかで他の道へ進んだとしても今の人生でぶつかった苦労や困難が避けられるとは思えないからです。今までぶつかった困難のほとんどは自身の人格や能力が原因で発生したものだと認識しています。もしそれらを避けるために道を変えるのであれば、人格や能力が根本的に変わる地点まで戻らなくてはいけません。そう考えてみると、産まれる家庭を変える、つまり別人物に産まれ変わるという次元で変わらないと意味がない。そこまでしたらもはや来世になってしまいますね。
もちろん進学先や就職先などを細かいところを変えていれば今より良い人生になった可能性はありますが、それを切望するほど今が不幸でもありません。考えが楽観的すぎる気もしますが、これくらいの方が生きていくにはいいのかもしれませんね。
 
短編集ですので他の垣谷さんの作品に比べるとライトにできているため、手軽に読みたいときにおススメです。