花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

宇佐美まこと 羊は安らかに草を食み

宇佐美まこと 「羊は安らかに草を食み」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。

 

f:id:flower_bookmark:20211119233735j:plain



 
80歳周辺の女性3人の仲良しグループがいた。そのうちの一人が認知症を患っていたため訪問すると、彼女がこれまで住んでいた思い出の地を巡る旅に連れて行って欲しいと彼女の夫から頼まれる。日頃のまったく見せていなかったが彼女は満州から引き揚げてきたときに壮絶な状況を経験しており、それが彼女の人生に大きな影響を与えていた。友人の過去を知りながらの旅を通して残りの二人も自分の境遇と向き合い始める、というお話。
 
自分の人生に残ってしまったわだかまりと向き合う、をテーマにした作品です。
3人で旅をするパートと友人の一人の満州での経験のパートが交互に描かれていて、こういった経験があったから今の友人のこの部分があると残りの二人が気付くという形式になっています。また友人の過去が分かるにつれて自分に正直になっていき、今までモヤモヤしていたわだかまりと向き合うようになっていく姿は惹かれるものがありました。
中盤から最後にかけては友人の大きな謎が明らかになっていくのでミステリー的な展開もありました。そういった点もあって最後まで飽きずに楽しめる作品になっています。
 
仲良しグループの一人が特殊詐欺にあい子供たちがアテにしていた貯金が無くなったことを独白するシーンがありました。街中でも注意喚起をよく見かけ、手法も様々になっているようです。
その中で前から妙だと思っていることがありまして、会社のお金を使いこんでしまったなど「親族が悪事をしてしまい解決にお金が必要」という手法がありがちな例になっていることです。悪事をしたら罰を受けるのが当然で、詐欺を抜きにしてもお金を渡そうとすること自体に違和感があります。ということは今の高齢者の年代には悪事をお金で誤魔化そうと考える人が少なくとも詐欺が通じるくらいにはいる、となります。なぜそうなのかは年代による価値観の相違なので想像するしかないですが、高度経済成長期やバブル期などの時には日本を急成長させるために綺麗ごとだけでは進めない場面もあったのかなと思います。
詐欺の話とは別にして、お金の使い方は価値観があからさまに出るので年代によって何をお金で解決しようとするかは調べると面白い傾向が出てきそうな気がします。
 
宇佐美さんの作品は面白いものが多いので、気になる方は読んでみてください。