花の本棚

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両角長彦 人間性剥奪

両角長彦 「人間性剥奪」
他のブログの方が紹介していたのを見て読んでみました。

 

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ある中学校にて給食に毒物が混入されて二人が死亡する事件が起きた。給食の時の状況を調べると被害者生徒の一人を故意に孤立させるいじめが起きていることが発覚した。いじめにあっていた生徒を調査するといじめを知っていながら隠していた教師、歪んだ愛情で近づこうとする父親、毒物混入を予見していたかのように熱弁する塾講師など周囲には奇妙な状況が多く見られた。調査が進む中で「人間性」と名乗る犯人からさらに被害を出したくなければいじめの首謀者にTVで謝罪させろという手紙が届く、というお話。
 
社会問題とミステリーを合わせたような作品です。
ミステリーとしてみた時の感想は場所によって力の入れ具体に差があるという印象でした。事件の真相やその伏線の出し方は非常に上手くて、推理しながらでなくても楽しめる面白さです。反面、犯人の正体についての伏線は出し方に他と比べると雑さが目立っていてすぐに分かってしまうので、著者はこっちを重要だと思っていなさそうなのが読んで取れました。全部が凝りすぎていると読むのが大変になるので私としては良い配慮になっていると思います。
 
本作で重要な要素として「思い込み」が出てきます。思い込みによる食い違いを持ったまま行動して思わぬ事態になってしまう、というのは現実でも度々見られます。思い込みは良くないと言われてしまうくらいに悪いイメージが強いですが、思い込みは捨てなくて良い考えであり、特に人間の性質に対しての思い込みは重要だと思っています。
思い込みとはその人の人生経験で積み重ねて作る統計的な印象です。なので「○○の人は××である」についてのサンプル数が十分に揃っていたら十中八九外れません。私の場合、こういう人は私に対して攻撃してくると分類した人間性を学生時代に作成しました。社会人になり、学生とは違うと聞いていたのでそれらを一旦しまっておいたのですが、結果としては攻撃してくる人のパターンは何も変わっていませんでした。
物であれば技術の進歩によって悪かった部分が知らないうちに改善していることはありますが、人間の性質でそれが起きることは基本ありません。もし起きたら何かしらの情報媒体で話題になるはずなので、そこに出てきた時点で思い込みを改めれば問題ありません。
 
思い込みの重要性についてもう一つ書いておきたいことがありまして、それは物的証拠がない物事については思い込みを使うしかないという点です。
例として「Aさんが私を嫌っている」の真偽を判定したいときを挙げてみます。直接聞いたときの返答、私に対しての接し方、など行動や言動による状況証拠は集められますが、最後は「こういう行動/言動をする人は私を嫌っている」といった思い込みに落とし込むしかありません。どうするのが正しいのか?は誰にも分からなくて、自分が納得するかどうかだけだと思っています。
私がいつもやっていることは、まず思い込みで決めつけて行動してしまいます。そして行動を露骨に相手に見せてリアクションを見ます。相手が「誤解されていて訂正したい」など何かしら思うところがあればリアクションが出てくるのでそれを見て修正すれば良し、無反応であれば決めつけは正しいまたは相手にとって重要でないことなので決めつけた行動のままで問題ありません。こんなことをよくするので周囲から思い込みが激しいと度々言われるのですが、上記は結構役に立つので直す気にならないのですよね。
 
知らない作家さんだったのですがとても楽しめました。他の作品も読んでみたいと思います。