花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

折原一 失踪者

折原一 「失踪者」
前に読んだ「異人たちの館」が良かったので別の作品を読んでみました。
 

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主人公は作家であり、事件の真犯人が逮捕される前に直接インタビューすることでノンフィクション作品の質を高めていた。ある市で相次いで起きている失踪事件を作品のために調査していると現場に残っていた「ユダ」「ユダの息子」というメモなどから15年前に少年Aによって起こされた事件と関連があると判明する。
一方で少年Aの父親は少年院にいる息子に手紙を送っていた。そこには少年が犯行に及ぶまでの間に自分が何をしていたかが独白されていた。
15年前の事件と今回の事件のつながりはあるのか?というお話。
 
二部構成のミステリー小説となります。
前半は15年前の事件がメインで後半は作家が追っている事件がメインとなります。
全部で550ページほどの作品ですが、二つの事件の真相を解く話なので途中でダレることなく読めます。どちらの結末もそれらの関係性についても上手く作られており、1冊で2作分読んだような感じになります。「異人たちの館」も長い作品だったのですが、ここまで長編を飽きずに読める作家さんはかなり珍しい印象です。
ミステリー以外の部分ですと本作は「子が犯罪者になってしまった親」をテーマに書かれています。
未成年の犯罪が起きた時にニュースでその子がどういう家庭環境だったか取り上げることがありますが、そういったことを受けて親たちは何を考えるのか?というところにフォーカスが当たっています。この辺りも読んでいて非常に面白い部分でした。
 
作中にて未成年が犯罪をしたときに親が世間から責められるのは納得いかないと父親が悩んでいるシーンがありました。
未成年の犯罪に限定するのであれば犯罪に走る原因は99%親のせいだと私は思っています。まず未成年の犯罪の発生源は人間性による部分がほとんどです。未成年の生きる世界はとても狭いので、親より強力な影響を人間性に受けようがないからです。付き合う相手が良くなかったと言われているのもニュースで見たことはありますが、いくら多感な時期であっても真人間が犯罪をするようになるほどの影響を他人から受けて人間性が変わることなどないと私は思っています。自分の保護下にある間に起きたことに責任が持てないのであれば最初から子供など育てない方が良いというのが私の意見です。
大人になるとお金や地位など人間性とは切り離された部分での犯罪をするようになるので、ここまで来ると親のせいとは言い難いケースが増えるでしょう。
 
もう一点、本書の内容でも少し触れている家庭環境について考えたことがあります。社会人としてみるとどういう家庭環境で育つのが良いのかという話です。
私は社会人になってから「一度も苦労したことのない顔している」と攻撃を受けたことが何度もあるので、ネグレクトな家庭など過酷な環境で育った方が社会では歓迎されると思っていました。本書を読んでもう一度考えてみたのですが、仮に私が過酷な家庭で育っていたとしても「ろくでもない家庭で育った顔している」に言葉がすり替わるだけで攻撃されるのはたぶん同じでしょう。攻撃される原因は私の人格にあるのは変わってないと思うので。
それだったら不自由なく育ててもらえた「一度も苦労したことのない顔」の方が私自身の人生としてプラスが大きいかなと思うようになりました。
 
テーマも深くて面白いのでおススメです。