花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

まさきとしか 屑の結晶

まさきとしか 「屑の結晶」
以前読んだ「ゆりかごに聞く」が良かったので別の作品を読んでみました。
 

f:id:flower_bookmark:20200503102844j:plain


2人の女性を殺害した男性が逮捕された。彼は逮捕時に笑顔でピースしていたことでクズ男と呼ばれ、彼を慕い続ける女性団体は「クズ女たち」と称され話題となっていた。そんな彼の弁護担当となった主人公は彼の言動が嘘なのではと疑い始める。彼は何を隠しているのか?真相を知るために彼の過去を探り始めるというお話。
 
人物の心理描写をメインとしたミステリー小説です。ミステリーの流れの中に登場人物たちがどういった思いで行動しているかが上手く描かれています。
本作は「承認欲求」をテーマに書かれた作品です。作中の人物たちは親、異性、友人などに認めてもらうために歪んだ行動をしており、何を考えてそんなことをしているのかがリアルに書かれています。本作を読んでいると歪な承認欲求の出処はたいてい幼少期の親との関係で決まるのだと読み取れました。
ミステリーとしてみても、真相に行きつくまでの流れは深いです。ただ上記のように歪んだ心理を持った人物たちの行動なので推理してロジカルに当てようとしても難しいのでやめたほうがいいです。
 
クズ男とクズ女が書かれているため、女性が男性にお金などを貢いでいることを語るシーンが多くあります。
私はお金で成立する関係はわかりやすくていいと思っています。相手の好みや機嫌を伺うよりもお金を渡すかどうかで関係の継続を決められる分簡単だからです。一つのお店でいろいろお金を使って良いお客さんになることで情報がもらえたり融通してもらえるようになるのもこれの一種だと思います。
今話題の10万円給付もそうですがお金をもらえて嫌がる人はほぼいないと考えると、ある意味万能かつ最強の贈り物と考えることもできます。もしかしたらプレゼント選びで失敗して評価下がるのが怖いという人がお金を貢ぎに走るのかもしれませんね。
 
作中にていつも言わなくていいこと言ってしまって苦悩する、という人物が出てきます。認められたい欲求が強くなりすぎて言葉が抑えられないから、と解説されていました。
黙っていることを選べない人は今まで何人かあったことはあります。何か言わないと認められない、あるいは嫌われると思っている人はみんなからいつも注目されているという自信がある人だと私は考えています。「あの人は居たのに何も言わなかった」と周りに認知されるのが怖いと思えるくらい今まで注目を浴び続けてきたからこそ、その発想に至るのだと考えています。私は目立たない人間なので黙っていると存在自体が認識されないため、それでマイナス評価になると思ったことはないです。
作中の人物は誰もが憧れる容姿を持っていて注目を浴びるというものでしたが、本人の性格と合うかどうかでその価値も変わってしまうようです。目立つ要素を何も持っていない側からすると勿体無くて残念な気がしますが。
 
社会問題系の作品に近いので、そういった作品が好きな方にもおススメです。