花の本棚

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佐野広美 誰かがこの町で

佐野広美 「誰かがこの町で」
書店で見かけて気になったので買ってみました。

 



 
主人公の男性は自分を捨てた両親を探して欲しいという依頼人のためにある高級住宅街へ向かいこととなった。事前の調査で一家はその街で失踪していると判明していたのだが、住民に聞いてもこの街で失踪など起きるはずがないと言い張るばかりであった。調べていくとその街は「安心安全の街」という外向けのPRを守るために住民と所轄の総出で街内の犯罪を隠蔽していることが判明する、というお話。
 
ホラーテイストな雰囲気のあるミステリー作品となります。
片田舎の風習を守るために~といった作品と流れは似ていますが、本作は地価を下げないために住民が犯罪を隠蔽しているというリアリティな不気味さが描かれています。読んでいると家を手放せないために住民からの同町圧力に従わざるを得なかったり、街を良くしているという名目で住民が暴走し始めたりと似たようなことは最近開発された地域でも起きていそうだなと思える描写が多くあり読んでいて面白いです。
ミステリーの方は読んでいるだけでおおよその全容は推察出来るので自分で推理したりする必要はありません。話を面白くするために添えてある、というくらいの認識でOKです。
 
作中では街のためを名目に悪事を働くことに生きがいを感じ始めている描写がありました。描写によると自分の一声に周囲の住民が賛同して従ってくれることが快感になるのだそうです。
この描写を読んでいて、私の最初の職場と似ているなと思い返していました。その職場では「会社のため」という名目のために不正が横行する職場でした。衝撃的だったのは「今年は新卒を取り過ぎたので辞めさせるように仕向けろ」と会社が求めていると言いながら攻撃する社員がいたことです。ちょうど私がそのときの新卒だったので結構な攻撃をもらいましたが、後に調査したところ実際はそんな指示はなくただ本人がストレス発散したかっただけと判明したため辞職することなく今に至っています。
作中でも描かれていましたが「〇〇のため」を強調しすぎると根っからの悪人というよりは小心者が煽られて暴走することが多いようなので注意しましょう。
 
あまり見ない舞台設定の作品でしたので、気になる方はぜひ読んでみてください。