花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

久坂部羊 悪医

久坂部羊 「悪医」

久坂部さんの医療系の本はためになるものが多くてチョクチョク読んでいます。




主人公は若い外科医とその患者。患者は外科医にガンに対して治療するすべがもうなく余命3か月と告げられる。残りの人生を悔いなく生きるために治療をやめるべきと薦めたが、患者は現実を受け入れられずにその場から逃げ、再診に来なくなってしまう。
外科医はその出来事が忘れられず苦悩し、患者は希望を持つために様々な治療を試し始める。二人の視点を通してガン治療に必要なものは何かを展開していくお話。

この本は現在のガン治療の現実を医者側と患者側から書いているお話です。
現代のガン治療についての知識が詰まっているので、すごくためになります。

医者側のテーマとして「治療見込みのない患者をどうするべきか」がかかげられています。今の傾向としては症状は正確に患者に伝えることが主流ですが、はたして患者はそのショックに耐えられるのか?という点には多くの疑問があります。
今までの医療は患者を治すことに注力しすぎて、手の施せない患者のことを考えてこなかったことが原因になって問題が起きているそうです。
私だったら正直に伝えてほしい、と考えますがこれはガンとまだ接点が薄いからそう思えるだけかと思います。いつ死んでもいいと覚悟しているのと実際に死が迫るのには圧倒的な差があります。

また今の国の方針では治療の見込みがない患者への医療費は無駄な出費とされているそうです。
資金は有限なのでそうなってしまうのは仕方ないことですが、無駄とされ見離されてしまった人々にとってはショックなことです。こうなってくると見放すくらいなら安楽死施設作った方が…とか残酷な方に方針が向きそうで少し恐ろしい。

患者がわずかな希望を求めて詐欺まがいな治療にも手出していく姿は生生しい。外から見てると可哀想と思うくらいですが、死を突き付けられてる人は何にでもすがりたい思いだから、お金払って希望が手に入るなら安いと考えてしまうのでしょう。

年を重ねるごとにガンから目を背けられなくなるので、ある程度以上の年代の方なら自分や家族のことを見据えて一読をおススメします。