花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

奥田英郎 沈黙の町で

奥田英郎 「沈黙の町で」
本好きのコミュニティで見つけた本です。



ある中学校で学生が転落死しているのが発見された。事故か自殺か調査しているとその学生が集団いじめを受けていたことが発覚し、加害者と目される学生が逮捕される。学生はなぜ死亡したのかを明らかにすべく調査するというお話。

社会問題系の内容です。いじめによる被害者の遺族、加害者、学校、警察とそれぞれ価値観の違う視点から一つの事件をどう見るかということが書かれています。
立場によって一番大事なことが違うためにそれぞれが身勝手なことをしている部分はリアリティがある。近年いじめによる自殺の報道がしばしばありますが、きっとこのように立場によって思惑が違う、なんて事態が起きてるんだろうと想像できます。

読んでて思ったのはネット社会の恩恵がこんなところにある、ということです。
かつてはいじめによる自殺は無駄死にとされていましたが、今の時代だとネットによる加害者の名前、顔写真、親の職業などあらゆるものが流出するので自殺するだけでも加害者側に大きなダメージが入ります。特に日本人はネット上など匿名の場だと残酷になり、容赦なく流出やバッシングが発生してノイローゼになったりもするそうです。他人を攻撃するような人間を育てた結果による自業自得なので同情する気にはまったくなりませんけど。

もう一つ読んでて不思議だったのは、生徒がいじめによる強要自殺があったのを疑われたときの周囲の右往左往っぷりが妙でした。いじめがあれば自殺が起こり得るのはいい歳してれば知っていて、知ったうえで放置したのならそれを覚悟の上なはずなのに、なぜ狼狽えるのかが理解できない。自身の選んだ行動に対しての覚悟が足りてないんじゃないかと思います。

この本はぜひ子育てに関心のある方に読んでいただきたい。いじめられる側かいじめる側、あるは傍観者のどれに自分の子どもを立たせるかを選ぶきっかけになると思います。どれが良い悪いではなく、どの立場にもメリットとリスクがあるのでそれをよく見て選択するという問題です。
社会問題系の本はいろいろ考えるきっかけになるので読んでてやはり面白い。