花の本棚

読んだ本の感想や考えたことを書いています

大門剛明 雪冤

大門剛明 「雪冤」
本屋で平積みしてあるのに惹かれて買おうかと思ったら、2年前に読んでいました。

重複するところでした・・・



主人公は元弁護士。15年前にホームレスに対してボランティアをしていた男子学生と女性が殺害され、現場から逃走する主人公の息子が目撃されたために犯人として逮捕される。すでに死刑囚となった息子の冤罪を信じて主人公は冤罪を訴える活動をしていた。
獄中から弁護士を通じて無罪を主張する手記が出されたのを機に、殺害された女性の妹に真犯人メロスから電話が来る。メロスは主人公に対しても自首する代わりに金銭を要求する。
冤罪の息子を死刑から救えるか?というお話。

死刑制度がテーマにしたミステリー小説なので重めな内容です。
加害者家族視点と被害者遺族視点を交互に行き来するので、ストーリー進むにつれて心情が変化していく様子はすばらしい。
それとラストが衝撃的すぎた。全然犯人が読めなかった。

死刑制度がテーマということもあって、今の死刑制度の問題点とその点への提案がいくつか出てきます。
多数あるので気になったものの一つで「死刑執行のボタンを国民に押させる」という案がありました。死刑が他人事になり死刑制度の議論が進まない、なら国民にやってもらおうという考えです。
一般人に殺人のボタン押させたら精神的トラウマになる、という懸念点については「相手は死刑囚だから死んで当然」という大義名分を念入りに刷り込めば解決できそうです。ただ、仮に刷り込んだとしてもこの作品みたいに実は冤罪でした、なんてことになったらかなり危険。そこまでケアが出来るんだったらこの案は革新的になりますね。

また本作では死刑制度の議論にあたって「人が人を殺していい理屈」が成立しないとと意味がないと書いています。
これを真剣に議論すると長そう…なので短めに。この理屈について私から意見したいのは「人を自殺に追い込む」も「殺し」に入れて考えるということです。
日本は自殺大国と言われて長いですが今のところ効果的な対策がないため、殺人として扱えば抑えられるのでは、という考えです。
パワハラという表上の攻撃を抑圧されたためか、水面下の陰湿な攻撃でストレスを発散する、というが今の主流になりつつあります。
「故意に自殺に追い込んだかの判断が難しい」という点はあります。が今の裁判でも「殺意があったか」という見えもしない心理面で争ってるので大差はないだろうと考えてます。

ダークな面が引き立つ作品ですが、加害者家族と被害者遺族それぞれの思いや互いが接する場面は引きつけられるものがあるのでおススメです。