櫛木理宇 「虜囚の犬」
続編の「死蝋の匣」を先に読んでしまったので前作にあたるこちらを読んでみました。
元家裁調査官の男性はかつて担当した少年が遺体で見つかったと友人の刑事から知らされる。しかもその少年は自宅に女性を監禁して犬のような扱いをし、殺害して庭に埋めていたことが判明する。彼はかつて父親から犬のように扱われており、自分が強くなったことを誇示するために弱者に同じことをし始めたのではと分析する。
かつて担当した者としては彼がそんな非道なことが出来る人格だったとは考えられず、彼のことを知るためにも友人の調査に協力することにする、というお話。
歪んだ家庭で育った少年たちがその後どのような考えで生きているのか、という心理描写の上手さが本作の見所となります。考えや欲望を親に抑圧されて育った子供たちがどういった考えになるかという点は非常にリアルなのでためになる内容でもありました。また親側の心理についても多くの描写があり、本作では主に父親にフォーカスが当たっています。豪放磊落で我が道を行くような父親に一見見えても、実はその根底には弱い部分がたくさん隠されているなどといった描写もあるのでこちらも見所になるかと思います。
上記の見所自体は面白いので良いのですが、続編の「死蝋の匣」とかなり似ています。主人公が元家裁調査官という点からそういった内容になりやすいのでしょうか。私は専門家じゃないので詳しくは分かりませんが、家裁調査官が対面する子供たちの歪みの原因が父親にあることが多いから今回も父親にフォーカスが当たっているのかもしれません。
作中にて父親がした非道な行為を弱者に対して行う少年について、自分がもう弱者でないと誇示する心理から発生した行動だと分析している場面がありました。この心理自体は誰しも持っているものであるけど、家庭環境などの影響で歪んだ人間性になると異常な行動で誇示するそうです。
この心理は私も経験があり、異常な行動で誇示するのもやろうとしたことがあるので、解説には納得できました。私が今の会社の最初の部署で自殺を強要されるパワハラを受けていたことは何度か書いていました。それに対して「一社員として戦力になった暁には、先輩たち全員殺してやる」と怨嗟を募らせている時期があったので、上記でいう弱者でないことの誇示として連続殺人をしようとしていたのでしょう。
この件はさすがに巨大で歪な出来事ですが、あらためて過去の行動を思い返すと強くなったことを誇示するために「強者に対して報復する」を私は幼少の頃から度々やっているようです。経緯は様々なので割愛するとして、共通しているのは「強者に挑んで打ち負かす=強さの証」だと考えているようです。私がなぜこんな価値観になったのかはまた別の機会に考えるとして、おそらく家庭環境や親の行動が歪なものだとこの「強者の証」の定義が歪むのでしょう。
大人になってからこの価値観の歪みを矯正するのはたぶん不可能なので、そういった人を発見したら即座に距離を取るしかないだろう、という考えに至りました。
本作は家庭を持つ男性が読むとためになる内容があると思いますので、ぜひチェックしてみてください。