花の本棚

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神津凛子 わたしを永遠に眠らせて

神津凛子 「わたしを永遠に眠らせて」
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
神津さんの新刊が去年末に出ていたので買ってみました。

 



 
主人公の女性は再婚して男性側の家に入ることになった。しかし義母と義姉から苛めを受ける毎日となるが、彼女は跡継ぎを産めない体であることを隠しているために耐えることしか出来なかった。あるとき病院に行ったことで子宮を摘出していることが義母たちに知られて、責められたことをきっかけに、それを知っていながら結婚した夫が彼女を連れて家を出ることを提案する。家を出たことでようやく平穏になったのだが、出てから数日後に慕っていた義祖父が亡くなったと知らされて結局家に戻ることになる。
しかし義祖父の死ぬタイミングが急すぎることから、彼の介護をしたくないから殺害したのでは?と疑い始める、というお話。
 
DVをテーマにした「オゾミス」と呼ばれる「おぞましいミステリー」というジャンルになります。
神津さんといえば「オゾミス」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。帯には「慟哭のオゾミス」と書かれていまして実際どうなのかというと、本当にそれくらいのおぞましい内容でした。
本書で書かれているのは虐待や嫁姑問題といったDVであり、登場する加害者たちの考え方はどれも独善的かつ醜悪なものとなっています。それらの描写が非常にリアルかつおぞましく描かれているのが本書の見所となっています。人間ってここまで醜い生き方が出来る生き物なんだな、と恐ろしくなるほどでした。人によっては自身の経験と重なって嫌なことを思い起こしてしまうかもしれませんので、そこだけは気を付けた方が良いでしょう。
ミステリーの面で見るとそこまで深い要素にはなっていません。義祖父の死など謎はありますが真相を探るような流れにはならないので、話を面白くするために付与されていると考えてOKです。
一つ気になるのは物語の結末、帯に書いてある「慟哭のラスト」についてです。ネタバレになるので具体的なことは書けませんが、「慟哭」となるかは結構別れそうな結末でした。決して明るい結末ではないですが、報われたという意味でハッピーエンド寄りだろうと考えています。
 
作中にて今まで一方的に攻撃していた強者と受ける一方の弱者の立場が逆転して報復される、というシーンがいくつかありました。
社会問題の中ですと8050問題においてこれまで親の方が強者だったのに老いによって衰えて子の方が強者となってしまうケースが問題になっていると他作品で言及されていました。
ところが最近、私が当事者になった強者と弱者が入れ替わるケースがありました。といっても大したことではないのですが、会社の先輩たちが病気や加齢によって衰えていく一方で、私がなかなか衰えず活力があるために強弱関係が入れ替わってしまいました。かつて新人だった私に数々の暴言を言いながら調子付いていた先輩方の雄姿は、時代が変わったという言葉で説明がつかないほど見る影もありません。営業職のような常に精力的に活動する職種であれば私の年代においてこれほど弱体化はしないはずなのですが、私の職種は体が虚弱かつ私生活がだらしなくて対策もしない人が多いという点から弱体化が顕著です。これは8050問題のパワーバランスの崩壊と状況が一致するので、もし強者に躍り出た人が先輩たちに仕返しを企て始めたらチームは一気に崩壊するだろう、というのが私の見解です。私の先輩たちのようによほど調子に乗ったことをしない限りは弱ったところを攻撃されるなんてことにはならないはずなので、それで崩壊するチームは所属メンバーの人間性に問題があると解釈して潰してしまっても問題ないでしょう。
 
新年早々に読むには重たい内容でしたが、神津さんの「オゾミス」が気に入っているのであれば楽しめる作品ですのでぜひ読んでみてください。