花の本棚

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柄刀一 或るスペイン岬の謎

柄刀一 「或るスペイン岬の謎」
あらすじを読んで面白そうだったので買ってみました。
 


主人公の男性は恩人の娘と日本を旅していた。訪れたのは美術大学の学園祭で、毎年その大学では学生たちが趣向を凝らした方法で自分の芸術を表現することで有名であった。そんな中で大学教授が密室状態の室内で殺害され、その部屋は家具の配置、遺体が着る服装などがすべて前後左右逆になっているという現場自体が芸術パフォーマンスのようになっていた。
現場の状況では犯人は脱出不可能と判断されそうになるが、彼はこうした不可解な事件を解決するプロであり、密室の謎を解くこととなるというお話。
 
密室の謎を解くミステリー短編集となります。上に書いたあらすじは第一章のお話です。
各章でそれぞれ密室現場が登場し、どうすれば密室が破れるかを推理するという流れなので、推理物というよりは謎解きゲームのような作風になっていますなのでこうすれば密室が作れる、目撃証言の現象が再現できる、という多少強引な閃きで謎を解く感覚で楽しむと良いでしょう。難しく感じるかもしれませんがどういった方向性で考えると解けるかを、可能性を検討しているていで主人公が読者に説明してくれるので親切な作りになっているのも良い点だと思います。
真相の内容も強引すぎて白けるようなものはなく、面白い発想のトリックが色々と出てきます。それだったら出来るかもしれない、という納得感もあるのでこちらも見所になるでしょう。
 
作中にて芸術は未来に自分の魂を残す行為だという話がありました。時代が変わることで評価が上下し移り変わるのが芸術品の定めなので、それらにさらされる覚悟が必要とのことです。
この考え方は面白いですし、私自身も心当たりがあります。「出版当時はもてはやされただろうけど、今となっては到底通じず面白くない」と過去の名著を評したことが何度かあります。こういった感じで時代が進んだり、それを皮切りに同様の作品が現れたことで名作が駄作に変わったりしてしまうケースはどの業界にもある話でしょう。そういった移り変わりにさらされるのも芸術を生み出せる人の特権だと考えると、私の知り合いのイラストを描いている方とかはやっぱり尊敬するなと思います。
私が書いている書評も1から全部自分で書いているので、広い意味で捉えると文学作品になるのかもしれませんね。そう考えると、その当時はこの評価、考え方は自分の中で正しいと覚悟を持って書いていたのは間違いないかなと思います。しかし正直に言うと「当時は面白いって言ったけど、今思い返すとつまんない作品だったかも」とか「この考え方は今思うと無茶苦茶だな」という内容がチラホラあります。これらも当時の自分がどんな状態だったか知る材料になるので、これはこれで面白いものが残せていると前向きに考えておくことにします。
 
謎解きに挑戦してみたいという方は楽しめると思うので、気になる方はチェックしてみてください。